2021 Fiscal Year Research-status Report
文明形成期におけるアンデス・アマゾン間の相互交流:ワヤガ・ウカヤリ川流域の事例
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21K20038
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金崎 由布子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (10908297)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | アンデス考古学 / 文明形成期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、新型コロナウィルスの影響により、現地に渡航することができなかった。しかしながら、現地の研究協力者と連携し、リモートで調査を行うことで、目的とする成果を得ることができた。 先行する考古学調査は、標高2000mほどの山間盆地であるワヌコ盆地(ワヤガ川上流域)の河川沿いを中心に行われており、二十以上の文明形成期の遺跡が見つかっていた。本研究では、ワヌコ盆地の西部から北西部に位置する海抜3000mを超す高標高地でも、盆地内とよく似た土器文化を持つ遺跡が複数分布していることが確認された。このことは、当地域の形成期の遺跡が、これまで論じられてきたように盆地を中心とするユンガ地帯に必ずしも限定されるのではないことを示唆するものである。特に、形成期前期(ワイラヒルカ期)の分布範囲は広範囲に広がっていた。 また、ワヌコ盆地から北東に下った熱帯雲霧林地帯では、河川の合流地点付近に位置する丘陵上に建設された大型基壇建築が確認された。残存する高さは約20mであり、基壇の最上段と二段目の基壇の間には半地下式広場と見られる遺構が存在した。遺跡の半分は森林に埋もれており、遺跡の全容は不明であるが、基壇の全長は数百メートルに及ぶと見られる。また、丘陵の裾に広がる森林の中にも、丘陵頂上に登るための山道の一部と思しき石壁が確認された。 これらの調査ではハンディGPSとドローンを用いて、遺跡の位置の記録、簡易測量、および遺跡表面に見られる遺物の記録を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、新型コロナウィルスの影響により、現地に渡航することができなかったが、現地の研究協力者との連携により当初の計画である一般調査(踏査)を実施することができた。特に、これまで考古学遺跡がほとんど発見されていなかった熱帯雲霧林地帯において、大型基壇建築遺跡が確認されたことは大きな成果である。当遺跡は地域住民には知られていたものの、学術的に未報告の遺跡であった。この遺跡はアンデスとアマゾンの境界領域の中でも、アマゾン側の方からアンデスとの交流関係を理解することを可能とする遺跡として極めて重要である。また、植生に覆われている部分はあるものの、保存状態も良好である。そのため、この遺跡の発見は、アンデス・アマゾン間の相互交流が文明形成期の技術発達にどのように寄与したのかを明らかにするという本研究の目的に大きく貢献する。2022年度はこの遺跡の調査を中心に研究を展開する予定である。 また、ワヌコ盆地の形成期前期の土器を有する遺跡が、盆地外の高標高地帯にまで広がっていたことが確認されたことも、大きな成果である。当地域の前期の土器は、アンデスとアマゾンの双方の特徴を持つものとして知られてきた。今回発見された新たな遺跡の存在は、アマゾンとの交流関係を持つワヌコ盆地の文化が、同時代のアンデス山岳部にも影響を及ぼしていたことを示しており、文明形成プロセスの初期におけるアンデス・アマゾン間の関係に新たな視点を与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、現地にて発掘調査を行う。発掘調査は、2021年度に行なった一般調査(踏査)の結果を踏まえ、ワヤガ川・ウカヤリ川流域の間に広がる熱帯雲霧林地帯において実施する。 調査期間は4週間とし、現地考古学者、測量技師、および現場作業員5名を雇用する。地形や遺構はトータルステーションおよびドローンを用いて測量・記録を行い、慎重に分層しながら発掘を進める。遺物は適宜出土位置を記録しながら注意深く採取する。また詳細な年代解析を行うため、年代測定に用いる炭化物試料は分層後の層位断面からも網羅的に採取する。 調査で得られた表採・出土遺物は適切に整理・記録する。土器資料は実測・拓本・デジタルトレースを行ったのち、申請者が行った先行研究と同様の分析手法を応用し、器形を主体に、文様と装飾技法を組み合わせた型式分類を実施する。また製作技術の分析のため、デジタル顕微鏡で胎土等を観察する。動植物遺存体は現地専門家(トルヒーヨ大学)に同定を依頼する。出土炭化物および炭化物付着土器片は許可を得て日本に輸出し、東京大学放射性炭素年代測定室に放射性炭素年代測定および炭素窒素同位体比分析を依頼する。得られた年代データは、出土層位や土器分析の結果にもとづいてベイズモデルで統合し、各文化層の年代・期間を推定する。 調査にあたっては、現地政府の事前許可を得るとともに、地域住民の十分な理解を得た上で調査を実施する。遺構・遺物の扱いは現地の文化財に関する法令を遵守する。
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Causes of Carryover |
2022年3月に予定していた補助作業がなくなったため、次年度使用額が生じた。2022年度にこの作業を行う予定であり、その謝金の支払いとして使用する。
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