2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K20041
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古畑 侑亮 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (10906902)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 根岸武香 / 井上淑蔭 / 考古学的知識 / 石剣 / 陰陽石 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2021年度は、根岸武香(1839-1902)と井上淑蔭(1804ー1886)の書簡や著作の調査を行い、幕末・明治初期における国学者の遺跡・遺物観の研究を始動させた。とくに、所蔵先が分散している井上淑蔭の著作を優先的に調査した。 第一に、関東圏の所蔵機関への調査を行なった。そして、東京都立中央図書館に所蔵される武香・淑蔭関係書簡79点のうち未翻刻のもの、および埼玉県立文書館所蔵の『皇産霊能神霊』をはじめとした淑蔭の著作の翻刻作業を進めた。 第二に、「埼玉県初の考古学書」とされてきた淑蔭の『石剣考』の典拠を再検討した。その結果、孫引きが多く、実物はほとんど参照されていないことが判明した。さらに、陰陽石についての記述に富む『皇産霊能神霊』や『国学徴』など彼が著した国学書との比較を加えることで、西洋考古学書の知識を受容するにあたって国学の知識・思考との間で生じた摩擦や融合、包摂のあり方を明らかにした。 第三に、第6回日本文化研究所研究会にて「明治初期における考古学的知識の受容と遺跡・遺物観―埼玉県域の国学者を中心に―」、第10回歴史論研究会関東部会例会にて「明治初期における国学者の文献考証と遺物認識―井上淑蔭の石器研究を中心に―」を発表した。また、國學院大學日本文化研究所編『歴史で読む国学』(ぺりかん社、2022年)の刊行準備に携わり、本研究とも密接に関わるコラム「Ⅱ 歌文派と古道派」「Ⅳ 国学者の蔵書」「Ⅴ モノと国学者」を執筆した。 その他、考古学史の基本文献や調査のための機材を購入し、研究環境を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染再拡大により、予定していた出張調査のいくつかを延期せざるを得なかった。一方で、関西の大学院生の協力を得て、次年度に調査予定だった京都府立京都学・歴彩館や大阪大学附属図書館の所蔵史料について、前倒しで代理調査を行うことができた。 研究成果の発表については、当初から予定していた日本文化研究所研究会での報告に加え、歴史論研究会より依頼を受け、「考証家から実証家へ?―近世近代移行期の学智」を共通テーマとして、「考証家」を研究している若手研究者と共に発表する機会を得た。当日は、外国史研究者を含めた参加者の方々より今後の研究に関わる有益な示唆を受けることができた。 コロナ禍の影響は免れ得ないが、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度は、新型コロナウイルスの感染収束状況を見ながら関西ほか遠方の所蔵機関への調査を行う。状況によっては代理調査などの方法をとりながら着実に進めたい。さらに、アシスタントの雇用人数を増やし、撮影データの整理と翻刻作業とを共同作業にて推進する予定である。 分析作業としては、淑蔭と武香の著作のうち歴史学と考古学に区分されるものを比較し、歴史意識の遺跡・遺物観への影響、逆に遺跡・遺物から得た知見が歴史叙述に与えた影響に目を凝らす。そして、西洋考古学の知識の受容とアカデミズムとの関わり方を学派間で比較するところまでを年度内に完了させることを目指す。研究会での発表と投稿論文も並行して準備していく予定である。
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