2022 Fiscal Year Research-status Report
日本海軍の宣伝機関に関する研究―海軍軍事普及部を中心に―
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21K20045
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Research Institution | Kitakyushu Museum of Natural History and Human History |
Principal Investigator |
小倉 徳彦 北九州市立自然史・歴史博物館, 歴史課, 受託研究生 (60908169)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 日本近代史 / 海軍 / 宣伝 / 広報 / 日中戦争 / 軍縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、海軍の宣伝・広報に関する史料調査を進めた。国立国会図書館憲政資料室所蔵の斎藤実関係文書、防衛省防衛研究所所蔵の海軍関連文書、昭和館所蔵の海軍軍事普及部関連パンフレット類などの調査を行い、史料の蒐集を行った。また、海軍軍人が執筆した論文等を蒐集した。 収集した史料をもとに、海軍軍事普及部に関する研究を進めた。まず、軍事普及部の組織に関する分析を進め、組織の構成や人的構成を探った。政治的な要素の強い宣伝を担う第一課と、国防思想の普及を担う第二課が軍事普及部に存在し、それぞれ盛んに海軍に関する情報の発信を行っていたことを解明した。また、それぞれの課に所属していた海軍将校が、それぞれいかなる職務を担っていたのかを明らかにした。 以上の成果を踏まえて、1935年の第2次ロンドン海軍軍縮条約に向けた宣伝活動について分析を行った。その際、軍事普及部第一課長であった、関根郡平の活動に着目した。関根は、軍事普及部に所属する以前から執筆活動を行っていた軍人であったが、軍事普及部第一課長就任後、さらに頻繁に海軍軍縮に関する論文やパンフレット等を執筆していくこととなる。関根は、加藤寛治などの、いわゆる「艦隊派」に近い人物であり、その主張も軍令部系の軍人たちの立場に近いものとなっていた。また、軍事普及部委員長に「条約派」に近い坂野常善が就任した際には更迭運動に加担し、それを実現させた。 関根の精力的な活動もあり、海軍軍事普及部は、海軍部外に対する軍縮対策の中心的役割を担っていくこととなる。執筆活動、講演活動等により、海軍は軍縮に対する主張を社会に浸透させていき、最終的には軍縮条約からの離脱という成果を得たのである。今年度の研究により、その実態をある程度解明できたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年4月より、北九州市の学芸員として採用された関係で、年度前半は出張を行うことが難しく、研究の進捗に遅れが生じた。 また、本年度後半より体調をくずし、計画通りに研究を進捗させることが困難となった。そのため、さらに研究計画に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、史料の調査・蒐集を行う。調査先は、国立国会図書館、防衛省防衛研究所、呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)、徳島県公文書館などを予定している。雑誌記事、海軍省の公文書類、また、勤務地である北九州市に残された新聞史料(地方紙)を調査し、海軍に関係する記事を蒐集する。 蒐集した史料をもとに、主に日中戦争ぼっ発後の海軍軍事普及部の活動について、研究を進める。軍縮条約離脱後の海軍軍事普及部にとって、日中戦争への対応は非常に大きな課題であった。なぜなら、第一次世界大戦以降の総力戦において、いかに国民を戦争に動員していくのかということは、海軍にとっても重要な問題であったからである。 この点について明らかにするために、まず海軍軍事普及部の活動実態について、分析を進めていく。軍事普及部発行のパンフレット類、雑誌論稿、海軍省の公文書等を用い、海軍が日中戦争について、国民に何を訴えていたのか、あるいは、どのような情報を流通させていたのかを探る。 また、当時の新聞報道、特に海軍軍事普及部が関与していると思われるものについて検討を行い、戦争報道に関する海軍の関与のあり方について、分析を行う。海軍省の公文書には、一部新聞記事の草稿が残存しており、戦時期の新聞報道に対する海軍の関与の実態が明らかになると思われる。その作業においては、東京周辺の新聞記事と地方(特に勤務地である北九州)における新聞記事の比較分析を行い、東京で海軍が流通させた情報が、どのように、またどれほど、地方へ広まっていったのかという点を明らかにしていきたい。以上の分析をもとに、日中戦争期の国民動員に対して、海軍軍事普及部が果たした役割を解明することとする。 なお、以上の作業に並行して、研究成果のまとめ、および論文化を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、本務の多忙と体調不良のため、残額が生じた。 次年度は、今年度の遅延分も含めて積極的に史料調査のための出張を行う。また、研究を進めるための備品や、研究環境整備のための書籍購入等を積極的に行い、研究費の使用につとめる。
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