2021 Fiscal Year Research-status Report
A study on the transboundary reality of Japanese midwives in modern era - through the case of midwives crossing into the colonial Korea -
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21K20061
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
扈 素妍 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 企画調整部, アソシエイトフェロー (00908204)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 日本人産婆 / 越境者 / 渡韓 / ジェンダー史 / 東洋近代史 / 韓半島 / 出産の場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の初年度であったため、研究計画の内容に従い、東アジアの近代史における女性越境者として韓半島へ渡った産婆の状況とそこでの労働環境、生活状態に対する資料収集と整理に集中した。具体的には次の三つの作業を行った。第一に、植民地朝鮮における日本人産婆の免許状況が確認できる『朝鮮総督府官報』の記事を通じて、産婆たちの本籍地や免許申請日、免許停止やその理由をアクセルファイルで整理しながら、産婆たちの移動と分布を整えた。第二に、1907年に統監府と契約し、医師・看護婦・産婆・薬剤師などを朝鮮へ派遣する事業を行った「同仁会」の機関紙である『同仁』を調査して、派遣の意図や当時医療専門家が見た朝鮮の状況などの情報を得ることが出来た。第三に、『京城日報』『朝鮮時報』『釜山日報』などに掲載された日本人産婆の広告や産婆個人及び組合活動に関連する記事を収集及び整理した。以上を通じて、日本人産婆は植民地期以前から韓半島に進出していて、主に漢城(植民地期の京城、現在のソウル北部)や釜山・大丘などを拠点として、産婆学校の講師として雇用され、産婆組合を設立するなどの活動をしていたことが分かった。 さらに、日本人産婆が働いた場である植民地朝鮮への理解を深めるため、朝鮮学会やKCKS 京都コリア学コンソーシアムなど、朝鮮史関係の学会へ加入・参加し、研究の基盤を築き、研究の視野を広めようとした。そして、渡韓した産婆の働き場としての京城における「出産の場」の様子について、KCKS 京都コリア学コンソーシアムで報告した。それによって、当時の京城の「出産の場」における日本人産婆を如何に位置づけようかという問題点について、研究者の方々から多く示唆を受けた。そして、研究の裾を広げようと韓国の日本史研究会などへも活発に参加して、韓国の日本史研究者との交流を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はコロナのオミクロン株が流行し、特に下半期には韓国で新規感染者が急増したことによって、渡航がとても難しい状態であった。そのため、韓国で確認しようとした資料などへ接近することが出来なかった。ところが、このような状況下でも、東京大学の明治新聞雑誌文庫や国会図書館本館への資料調査を行い、雑誌・新聞・関係人物の書簡などの資料を収集し、整理できた。さらに、韓国の国立中央図書館で提供するデジタルアーカイブを利用して、『毎日申報』『朝鮮時報』『釜山日報』などの記事を確認し、朝鮮各地における産婆組合の設立などの情報を取得した。 また、購入予定であった『京城新報』が、その版権の問題があり、正式版を購入するため、予定がすこし遅れているが、韓国に正式版の在庫があることを確認でき、購入の手続きに着手している。 整理した資料に基づいて、今年度中に論文にまとめて、学術雑誌に発表するつもりであったが、オミクロン株の流行によるコロナ禍の悪化や執筆の間に生じた新しい疑問点などの問題のため、論文掲載には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究は、『朝鮮総督府官報』という当時の公式媒体に表れる渡韓した日本人産婆の出身地などの基礎データ作成と、その渡韓した理由を「同仁会」の雑誌や、当時の新聞記事を通じて考察する試みであった。 令和4年度には、去年の研究実施計画書に書いたように、資料の収集と整理と行いながら、論文を執筆し、学術雑誌へ投稿する。具体的には、国家図書館の憲政資料館で、「同仁会」の会長を務めたことのある大隈重信の関係文書を閲覧し、また、「同仁会」の会員であって、植民地朝鮮の衛生政策に大きな影響を与えたと評価される山根正次の関係文書も確認する。そして、渡韓した産婆たちに関する情報をかき集めるため、韓国の国立中央図書館で『漢城新報』などの韓末期に日本語新聞を確認し、国家記録院で産婆規則違反に関する書類や慈恵医院関係書類を閲覧する。そして、京城のみならず、植民地朝鮮の大きな地方都市であった釜山・大邱・平壌などにおける日本人産婆の生活および社会活動を確かめるため、釜山で刊行された『朝鮮時報』や、『大邱府史』などの地理誌を精読する。 現在、韓国でもオミクロン株の流行が収束されつつあるため、今年の6~8月頃には韓国へ資料調査に行き、その日程にかねて日本史研究会などで研究報告をするため、申請中である。その上、今年度に整理できた資料に基づいて作成中である論文を6月までは完成して、学術雑誌へ投稿する予定である。さらに、令和4年度には新しく収集する資料をもとに同時期の渡韓していた他職業の日本人女性との比較などを通じて、女性越境者としての産婆の様子をより鮮明に表す論文を作成し、来年の1月頃には韓国の学術雑誌に投稿するつもりである。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナのオミクロン株が流行し、特に下半期には韓国で新規感染者が急増したことによって、渡航がとても難しい状態であった。そのため、韓国へ資料調査に行くことができなく、確認しようとした資料などへ接近することが出来なかった。また、購入予定であった『京城新報』が、その版権などの問題があり、正規版を購入するため、予定がすこし遅れている。 来年度における物品費と旅行費の使用計画は次の通りである。まず、最近ようやく韓国のオミクロン株が収束しているため、今年は韓国の国立中央図書館で『漢城新報』などの韓末期に日本語新聞を確認し、国家記録院で産婆規則違反に関する書類や慈恵医院関係書類を閲覧する。また、『京城新報』の場合、韓国に正式版の在庫があることを確認できたので、購入の手続きを進める。 そして、その他の論文の校正費や投稿費は、いままで整理できた資料に基づいて作成中である論文を6月までは完成して、学術雑誌へ投稿することに使用する。さらに、新しく収集する資料をもとに同時期の渡韓していた他職業の日本人女性との比較などをまとめて、来年の1月頃には韓国の学術雑誌へ投稿することで予算を使用する予定である。
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