2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on the transboundary reality of Japanese midwives in modern era - through the case of midwives crossing into the colonial Korea -
Project/Area Number |
21K20061
|
Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
扈 素妍 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 企画調整部, アソシエイトフェロー (00908204)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
|
Keywords | 日本人産婆 / 越境者 / 渡韓 / ジェンダー史 / 東洋近代史 / 植民地朝鮮 / 産婆労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、去年の引き続き、東アジアの近代史における女性越境者として韓半島へ渡った産婆の状況とそこでの労働環境、生活状態に対する研究を進めた。具体的には次の三つの作業を行った。第一に、『統監府統計年報』の人口・衛生の項目に表れる、産婆の数と、当時韓半島へ住んでいた日本人人口数のデータを集めて整理しながら、産婆たちの分布と日本人人口の推移を分析した。第二に、植民地化される前の韓半島で活動した日本人産婆の活動根拠を確認するために、統監府の機関紙であった『広報』を検討した。ここで、1908年から1910年1月にわたって、日本人が多く居住していた平城・元山・仁川などの地域に日本人医療従事者に対する「営業願届ニ関スル件」という「理事廰令」が発布されたことを確認できた。第三に、去年から引き続き、『京城日報』『朝鮮時報』『釜山日報』などに掲載された日本人産婆の広告や産婆個人及び組合活動に関連する記事を収集し、上記の資料と合わせて分析を行った。 研究発信の実績としては、朝鮮史と日本史に対する理解を深めるため、朝鮮史研究会関西支部や韓国の日本史研究会などの、朝鮮史と日本史関係の学会へ加入・参加し、研究発表を行った。10月2日には朝鮮学会第73回大会で本研究の基盤や比較のもととなれる植民地時代の朝鮮人産婆の労働環境に関して発表した。12月17日には、韓国のソウル大学で開かれた日本史学会の第106回月例発表会において「近代日本人産婆の韓半島越境―統監府時期を中心に―」という題目で発表を行った。それによって、産婆の活動と移民法との関りや、日本人警察、特に巡査たちの韓国進出との関係などについて、研究者の方々から多く示唆を受けた。そして、同月に韓国の学術雑誌、『Journal of Japanese History』に朝鮮学会での発表をまとめて、京城で働いた朝鮮人産婆の労働実態に関する論文を掲載できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は全世界でコロナ禍がおさまっていくにつれて、各国の防疫政策が徐々に緩和し、渡航の壁が低くなった。そのため、国立中央図書館や国家記録院などを訪問し、最近の関連研究書や論文、資料と公文書の確認が進んだ。また、去年の引き続き、東京大学の明治新聞雑誌文庫や国会図書館本館への資料調査を行い、雑誌・新聞・関係人物の書簡などの資料を収集し、整理できた。さらに、国立国会図書館のデジタルコレクションの資料を送信サービスで遠隔で確認することが可能になり、『助産之栞』『産婆学雑誌』などを確認し、当時日本人産婆の動きについて資料収集を行った。 また、『京城新報』を購入でき、日本人産婆の広告や当時漢城の看護婦会に関する記事を確認でき、渡韓産婆の労働環境について手掛かりを得た。しかし、昨年度までのコロナ禍影響による資料収集の遅れのため、論文投稿などの予定は遅れている状態である。 そのため、研究発信は去年末から徐々に進めていて、10月2日には朝鮮学会第73回大会で朝鮮人産婆の労働環境に関する研究発表を、12月17日には、韓国のソウル大学で開かれた日本史学会の第106回月例発表会において研究発表を行った。そして、同月には韓国の学術雑誌、『Journal of Japanese History』に越境した日本人産婆研究の基盤や比較のもとになれる京城で働いた朝鮮人産婆の労働実態に関する論文を掲載できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和5年度には、これまでコロナ禍で遅れていた資料収集に基づいて、収集した資料を総合的に検討し、発表原稿を論文としてまとめ、学術雑誌へ投稿する予定である。具体的には、植民地期に入ってからの産婆数増加の推移と朝鮮居住の日本人口数の変化を合わせて分析する。また、金沢大学附属図書館医学図書館に収蔵されている『日本助産婦新報』を閲覧し、渡韓産婆に関する情報を収集する。そして、韓国の国立中央図書館などで『大邱府史』などの植民地期地方の状況を確認できる地理誌の閲覧及び情報収集にあたるつもりである。そして、京都歴彩館の「閣省通帳綴込」などから確認できる産婆越境の状況に関する行政資料を探り出し、確認する。それから、去年日本史学会で研究発表した原稿を補完・修正し、6月末には学会雑誌に投稿する。 現在、日本と韓国は防疫体制が解除されたため、今年の6~8月頃には金沢や京都などで資料調査を行い、また韓国へ資料調査及び関連研究者との相談に行くつもりである。その上、去年日本史学会で研究発表した統監府期における日本人産婆の渡韓に関する原稿を補完・修正し、5月末までは完成して、学術雑誌へ投稿する予定である。さらに、植民地期の日本人産婆の朝鮮活動の実態については、去年、『日本歴史研究』に掲載した論文の朝鮮人産婆の京城における実態と比較分析を行い、来年の1月頃には韓国の学術雑誌に投稿するつもりである。
|
Causes of Carryover |
コロナのオミクロン株が流行に伴う各国の防疫体制強化により、昨年度の渡航がとても難しく、韓国への資料調査ができなかったため、研究の進捗が遅れていた。また、購入予定であった『京城新報』が、その版権などの問題があったため、購入がおくれて、資料分析も先延ばしになっていた。そのため、今年度の論文投稿の予定も大幅ずれている状態である。 来年度における物品費と旅行費の使用計画は次の通りである。まず、今年は金沢大学附属図書館医学図書館で『日本助産婦新報』を確認し、適宜必要な部分をコピーなどで収集する。そして、その他の論文の校正費や投稿費は、いままで整理できた資料に基づいて作成中である論文を6月までは完成して、学術雑誌へ投稿することに使用する。さらに、新しく収集する資料をもとに同時期の渡韓していた他職業の日本人女性との比較などをまとめて、来年の1月頃には韓国の学術雑誌へ投稿することで予算を使用する予定である。
|