2022 Fiscal Year Research-status Report
平安京・大和国における瓦生産・流通構造―9~12世紀を中心に―
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21K20062
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
田中 龍一 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (80910124)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 平安時代 / 平安京 / 都城 / 古代寺院 / 瓦 / 三次元計測 / SfM-MVS |
Outline of Annual Research Achievements |
採択2年目である2022年度は、飛鳥地域(特に川原寺)を中心に平安時代の瓦生産・流通の様相を検討しつつ、その成果公表に努めた。成果の概要は次の通りである。 川原寺出土の平安時代軒平瓦を、製作技術とその系統から6グループに分類した。さらに他遺跡との類例と比較しつつ3期に編年した。Ⅰ期(9世紀)は、奈良時代以来の文様・技術によるものが主体だが、平安京や南都七大寺での同笵品(同じ文様木型による製品)は認められず、川原寺を中心とした生産・流通を想定した。Ⅱ期(10世紀)においては、独自性の強い文様・技術による瓦が製作され、その出土量の多さから、川原寺において大規模な再建にともなう造瓦がおこなわれた可能性を指摘した。Ⅲ期(11~12世紀)では、南都七大寺と文様・技術ともに類似する瓦や、大和国外からの搬入瓦が使用されており、小規模な補修にともなうものであろう。 Ⅰ期からⅢ期にかけては、一貫した技術を保持する造瓦組織が維持されなかった可能性が高い。Ⅱ期の大規模再建時には、川原寺への供給を主目的とした造瓦組織を編成したものの、恒常的な維持はなされなかった。Ⅲ期の小規模補修時には、南都七大寺を中心とした瓦流通圏に組み込まれたものと評価できる。 以上の成果の一部については、田中龍一「平安時代における川原寺の瓦生産─軒平瓦の分析を中心に─」(『文化財論叢Ⅴ』奈良文化財研究所創立70周年記念論文集、2023年3月)として公表した。本論文では、瓦の図面の提示方法として主流である拓本・実測図・写真の代わりに、SfM-MVSによる3次元モデルから出力したオルソ画像と断面図を提示した。 そのほか、従前より検討をおこなっていた10~11世紀における平安京の造瓦組織についても、口頭発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成果の一部を論文公表した一方で、業務とのバランスの中で奈良県外の関連資料の調査が実施できなかった。延長した最終年度は、年度前半を中心に県外での調査を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を踏まえ、優先順位を①川原寺出土瓦とその関連資料、②平安京出土瓦としたうえで、研究を進める。①については、検討途中の川原寺出土の平安時代軒丸瓦にくわえ、奈良県外における類例の資料調査を実施し、製作技術の比較検討をおこなう。また公表した論文は軒平瓦の分析に留まるため、軒丸瓦と他遺跡の類例の調査成果を加えて、平安時代における川原寺の瓦生産・流通構造を復元する。 ②についても、平安京周辺で生産された軒瓦を中心に補足調査を実施しつつ、研究成果をまとめる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については、実施予定だった資料調査を延期したためである。 使用計画については、資料調査に必要な備品、旅費等に使用する予定である。
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