2023 Fiscal Year Annual Research Report
過疎地域への移住者は搾取されたか?キャリア形成と労働市場の変化からの分析
Project/Area Number |
21K20064
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
甲斐 智大 大分大学, 経済学部, 准教授 (50910113)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 特定地域づくり事業協同組合 / マルチワーカー / 移住 / 地方 / 地域政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は働き方の多様化を考慮に入れ、過疎地域へ移住した経験をもつ若者が、その後の生活基盤とキャリアをどのように形成し、それによって過疎地域の地域労働市場がどのように変化しているかを明らかにし、「移住」の意味を多角的に問うことを目的としたものである。本研究では過疎地域における新たな働き方の実践者であるマルチワーカーと彼らの受け入れ機関である特定地域づくり事業協同組合に対する調査を実施した。また、彼らの比較対象として地域おこし協力隊についても調査を実施した。 研究の結果、特定地域づくり事業協働組合が各地域で果たす役割は地域によって異なっており、外国人労働力の代替え機関としての役割を期待され成立した組合や地元企業が移住者を採用する際のミスマッチの防止を目的とする組合、新規就農者の育成を目的とする組合など設立されていることが明らかとなった。 これまで移住者(地域おこし協力隊など)は起業や社会貢献に対する意識が強く、彼らが地域内で独自の「移住者コミュニティ」を形成していると指摘されてきた。しかし、マルチワーカーは「移住者コミュニティ」に対して違和感をもつ者が大半であった。また、これまでのキャリア形成の過程で社会的困難感を抱えている者も目立つ。それに対して就労先である地元企業やケアサービス事業者は彼らを高く評価しており、彼らを正規職員として迎え入れた地元企業も確認される。このように当該組合は中小企業やケア産業の人手不足解消に向けた取り組みであるのと同時に、都市部での就労に困難を抱えている者にとっての居場所としての機能を果たしていることが明らかとなった。 他方で、組合の設置とワーカーの採用動向についての分析の結果、本制度が成果を挙げている地域は西日本、とりわけ離島に偏る傾向があり、中小企業の結びつきを前提とした本制度のような地域政策によって地方が選別されている可能性が示唆された。
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