2022 Fiscal Year Research-status Report
近世の旅と疫病伝播に関する歴史地理学的研究:安政5年のコレラ流行を対象として
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21K20077
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Research Institution | Setouchi Vocational college of tourism |
Principal Investigator |
谷崎 友紀 せとうち観光専門職短期大学, 観光振興学科, 助教 (60908888)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | コレラ / 疫病 / 旅 / 近世 / 名所 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、旅の大衆化が進んでいた近世後期において、疫病の流行により旅人の行動と旅の目的地に生じた影響を解明することである。具体的には、安政5・6(1858・1859)年のコレラ流行を対象として、当該期における旅の状況を、旅人の出発地、コレラとその情報の伝播過程、旅の目的地という3地点に着目して考察する。 令和4年度は、コレラ流行時の街道の交通量を明らかにするため、安政5年前後のコレラ流行に関する大福帳の調査をおこなった。具体的には、安政5年前後10年間の記録があると把握されている草津宿(滋賀県)、本庄宿(埼玉県)の大福帳の資料撮影・分析を進めた。それにより、令和3年度に収集を終えた大福帳と合わせて、東海道の二川・四日市・土山・石部・草津宿、中山道の本庄宿の大福帳のデータ収集が完了したため、大福帳から街道の交通量について分析した。その結果、安政5・6年のコレラ流行時に顕著な交通量の変化はみられないことが明らかになった。その要因として、大福帳に記される旅人は、一般庶民ではなく、参勤交代の大名といった特権階級的な身分の者が多いため、疫病の流行や災害の発生といったことをきっかけとして旅を中止することがないと考えられる。ただし、当該期の日記資料等では、コレラ流行時に街道から旅人が減少したことが記録されている。そのため、人々の社会的な属性により、疫病の捉え方にも差異がみられたことが推察された。以上の内容について、令和5年3月5日「文化遺産/災害文化の継承を考える研究セミナー」(立命館大学歴史都市防災研究所)において発表した。 ただし、今回得られた結果は旅人の用務や身分についての検討はおこなっていないため、そのような情報を考慮して分析をすれば異なる結果が導き出される可能性がある。よって、令和5年度においては、大福帳に記された旅人の属性を考慮し、より詳細な分析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度におこなう予定であった大福帳の調査が、新型コロナウイルスの感染拡大により遅れたことで、当該調査を令和4年度におこなったため、全体的に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、令和4年度に収集した大福帳のより詳細な分析を進め、全体的な交通量の変化だけではなく、旅人の用務や身分による細かな変化について検討する。また、各地に残されたコレラ流行に関する記事を収集し、疫病やその情報の伝播との関連について考察をおこなう。 加えて、上述のようなコレラ流行時の人の移動や情報の伝播について明らかにすることで、近世の人々の旅観・疫病観について論じる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、令和3年度に宿場町における大福帳の資料調査をおこなうことができず、全体の進行が遅れたことにより、令和4年度の追加調査と学会発表を計画通りにおこなうことができなかったため。 令和5年度には、大福帳の分析をすすめたうえで、その結果によって生じた追加調査と、成果発表のための学会発表をおこなう予定である。
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