2022 Fiscal Year Research-status Report
現代カンボジアのナショナリズム生成・再生産過程におけるメディアの役割
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21K20079
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
新谷 春乃 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター東南アジアII研究グループ, 研究員 (30791686)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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Keywords | カンボジア / ナショナリズム / メディア / 政治コミュニケーション / 言説分析 / 権威主義体制 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染状況を鑑みて、国内で実施可能な調査・研究として、1990年代以降のカンボジアにおけるメディアを取り巻く政治・社会状況に関する論文執筆を中心に進めた。前年度の段階で1993年~2022年までを3つの時期に分けて分析したが、今年度は各時期の分析の精緻化に努めた。以下では明らかになった点について時期別に記す。 第一の時期(1993年~2000年代半ば)は、テレビやラジオの大半が与党・人民党に掌握される一方、購読層が限定的であるために多様な政治的意見を持つ勢力の新規参入が容易であった新聞が政党間争いの戦場となった。1993年以前に制定された言論統制色が強い刑法や報道法(1995年まで)と、1993年に制定された表現の自由を保障する憲法が併存するなかで、非人民党系メディアを中心に、殺害など苛烈な身体的暴力や司法的抑圧にさらされた。 第二の時期(2000年代半ば~2013年)は、野党系メディアが抑圧や懐柔によって弱体化する一方、政府にとって不都合な社会問題を積極的に扱う独立系メディアが台頭した。そのため、独立系メディアが脅迫や司法的抑圧にさらされるようになった。第一の時期のように、殺害といった苛烈な身体的暴力は減少したものの、人民党政権にとって不都合な社会・政治問題を扱うメディアへの司法的抑圧が、刑法改正を伴いながら強化された。 第三の時期(2013年~2022年)は、カンボジアにおけるインターネット利用が飛躍的に増加し、ソーシャルメディアを通した自由な意見の表明が可能となった。それに危機感を抱いた人民党政権は、オンライン上の政府批判を取り締まるために様々な法制度や取り締まる組織を導入していく一方で、ソーシャルメディアや人民党系のオンラインメディアを利用して、支配の正統性を主張するとともに、野党勢力や独立系メディアも含む市民社会に対する抑圧を強化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1990年代以降のカンボジアにおけるメディアを取り巻く政治・社会状況に関して、前年度の調査・分析に加える形で、資料のさらなる収集と議論の精緻化に努め、同テーマに関する論文の執筆ができた一方で、予定していたカンボジアでの現地調査が実施できなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、カンボジアでの現地調査などを踏まえて、政治過程におけるメディアの影響について、1990年代以降のメディアをめぐる政治・社会的状況の3つの時期別に、カンボジアで働くジャーナリストへのインタビュー調査を実施する予定である。それとともに、日本国内からはアクセスが難しかった1990年代以降のクメール語新聞(主要紙に加えて野党系新聞など)の収集やメディア関係の情報省発行の報告書などの資料収集をカンボジアの公文書館等で実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた国外調査が実施できなかったため、次年度繰越金が生じた。 繰り越し分は、次年度の国外調査旅費で使用する予定である。
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