2021 Fiscal Year Research-status Report
Freedom of Expression on the Internet
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21K20082
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 美里 一橋大学, 大学院法学研究科, 特任講師 (30906897)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 情報操作対策 / 表現の自由 / フランス憲法院 / 私企業による規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、フランスにおけるフェイクニュース対策のための法制度(情報操作対策のための法律2018-1202号、以下、「情報操作対策法」)および、同法についてのフランス憲法院判決について調査を行い、この制度の意義と限界等について検討を加えた。 この検討を通して、情報操作対策法は、そこで対象となる情報が相当に限定されていること、すなわち、単に、その情報が事実と異なるものであるというだけでは、情報操作対策法による規制の対象となることはなく、その情報が、「故意に、人為的あるいは自動化された方法で、大規模に」拡散され、いわゆるボット化されている状態であると、はじめて、同法による規制の対象となるということが明らかになった。これは、フランスでフェイクニュース対策が本格的に議論されるきっかけとなった「マクロンリーク」において、諸外国の勢力が多額の金銭を用いて、ツイート等を「買収」し、それによって、言論が経済的な市場と同様に、財力の有無によって操作されるという状況があったことによるものと考えられる。 フランスにはもともと、金銭によって、言論の「市場」を操作することについて、国家の介入によってそれを防ごうとする傾向があり、それを支持する法理論や判決等が存在する。このような観点からすると、2018年の情報操作対策法も、同様の問題意識のもとで作られたものであると理解することができる。 このように、情報操作対策法は、金銭によって「買収」された言論にその規制の対象を限定することによって、表現の自由の保護とのバランスを図ろうとしたものであると評価することが可能であるが、その一方で、「買収」をされたわけではなく、自らの信条などから真実と異なる言論を展開することなどについてはどのように対処すべきかという問題については、現状で未検討のまま残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、フランスにおけるフェイクニュース対策について調査・検討を行い、その結果について、学会にて報告することができた。とりわけ、フランスにおけるフェイクニュース対策は、その起草の際に参照されたドイツにおける同趣旨の法律に比べて、相当に対象が限定されており、そのような対象の限定には、フランスでの「表現の自由」をめぐる議論の存在があるのではないかという点について検討できたことは、一定の意義を持っているのではないかと考えている。 当該報告の成果は、2022年度中に論文としてまとめ、公開される予定であり、フランスにおけるフェイクニュース対策について、一定の知見を得て、それを日本の学会で紹介することができたので、「おおむね順調に進展している」と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、2021年度の検討から見えた情報操作対策法の限界について、より深い検討を加えたい。先に指摘したとおり、情報操作対策法は、その対象を相当に限定している。それゆえに、同法の対象に入らないが、いわゆる「フェイクニュース」として理解されている情報や言論、たとえば、Covid-19のワクチン接種に対して反対する趣旨の言論などについては、表現活動のプラットフォームを提供している私企業が、各社独自の方針のもとで、規制を展開している現状がある。 このような私企業による規制は、柔軟性や迅速性の点で利点もあるものの、民主的正統性が十分でなく、それゆえに内容の正当性も十分に確保できないのではないかという懸念がある。そうであるとすれば、企業による規制においても、民主的正統性や内容の正当性を確保する方法や、あるいはせめて、事後的にでも、内容の正当性を議論し、検討できる制度を整えておく必要があり、このような制度を整えるために適しているのは、やはり国家であるように思われる。 2022年度は、どのような制度設計が考えられうるかを検討すると同時に、ここではやはり、そもそもどのような性質の言論であれば、規制することが許容されるかという根本的な問題の検討からは逃れることはできないと思われ、これを今後の研究の課題としたい。
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Research Products
(1 results)