2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K20085
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阿部 紀恵 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 助教 (30910856)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 国際環境法の諸原則 / グローバル法 / 人権条約 / 比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際環境法の諸原則が、複数の法体系・法規範に遍在し、種々の文脈を背負いながら多元性を伴う規範として発展するという現象を実証的に明らかにするとともに、この実証的分析から得られた結果の多角的な比較分析を通じて、グローバル法として諸原則を位置づける新たな理論を構築することを目的とする。 以上の目的に照らし、本年度は、本研究の開始前から取り組んできた人権条約機関の実行の実証的な分析を手掛かりに、理論的枠組みの構築を重視して研究を行った。とりわけ、国際環境法の諸原則を慣習法やソフトローと位置付けたうえで一般法として構想した先行研究を分析する際、それらに共通する「法源」「妥当の一般性の基礎付け」という構成要素を抽出し、これらの先行研究が出現した背景や果たした役割、および限界を明らかにした。また、これらの先行研究の批判的検討を通じて、グローバル法として国際環境法の諸原則を位置づける際、その意義と限界をも明確にした。こうした研究成果の一部は、研究論文として、雑誌『法学論叢』に掲載されることが決定している。 他方で、実証的分析については、当初予定していた国際貿易法ではなく、以前から検討の対象としている人権条約の解釈・適用をめぐる実行を引き続き対象とした。これは、グローバル法として国際環境法の諸原則の発展を把握するという本研究の目的をよりよく達成するために、気候変動問題をめぐって新たに生じている人権条約の実行の展開を分析することがより有益であること、また、実践の問題として急務となっていることによる(今後の研究の推進方策で詳述する)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は理論的枠組みの確立に予定よりも多くの時間を費やしたため、当初予定していた国際貿易法の実証的分析には時間を割くことができなかった。他方で、理論的枠組みを確立させたことにより、今後の実証的分析をより効率的に行うことができるであろうこと、また、気候変動問題をめぐり、人権条約の新たな実行の分析に着手したことで、本研究のカギである国際環境法の諸原則の比較検討について、今後の計画を具体化することができたのは、当初予定していなかった成果でもある。 したがって、一方で当初の予定からの進捗の遅れがあり、方向性の修正が必要ではあるものの、他方で予定外の重要な進捗が得られたことから、全体としておおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、気候変動の影響の緩和を目的として提起される気候変動訴訟が、国際法平面においても、人権条約機関への人権侵害の通報という形で現れている。とりわけ、2021年10月に児童の権利委員会がSacchi, et al. v. Argentina, et al事件について下した受理可能性決定は、人権条約機関が気候変動による人権侵害を本案段階で検討する可能性を大いに示唆するものであった。 現在人権条約機関に対してなされている申立ての一部においては、人権条約の解釈・適用における環境影響評価実施義務・参加の原則・予防原則の適用が主張されている。これらの国際環境法の諸原則の人権条約への包摂・排除という現象自体は、以前から生じている。しかし、騒音や水質汚濁のような、従来人権侵害を引き起こしてきた典型的な環境損害ではなく、気候変動というより複雑な環境問題を前に、人権条約機関が、これらの原則をいかなる根拠で、またどのように人権保障義務に包摂し、あるいは排除するのかを実証的に明らかにすることは、人権条約の義務内容という文脈において国際環境法の諸原則が発展する過程の実証的分析をより精緻なものとするだけでなく、当該文脈における時系列での比較を可能にするものである。また、気候変動の対処にはタイムリミットが迫っていることから、優先的課題とした。 以上より、実証的分析に関して、当初予定していた国際貿易法ではなく、引き続き国際人権法をめぐる新たな実行の分析の対象とする、という形での方策修正が必要となっている。ただし、特に予防原則については、国際貿易法における発展にも一定程度の実行の蓄積があることから、時間の許す限り、人権条約との比較において分野横断的に分析することを試みたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大が終息することを予想して旅費を計上したが、終息せず、学会等がすべてオンライン開催になったため、余剰が生じた。加えて、また年度の途中(1月)で所属機関が変更になり、執行が可能となるための手続に時間がかかったことから、執行可能であった半年のうちの3か月は執行できない状況にあり、物品費で余剰が生じた。なお、2022年度は学会が対面形式で行われることが決定している。また、引き続きこれまでの研究成果をまとめ、学会発表および論文投稿を進めていく予定である。
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