2022 Fiscal Year Research-status Report
著作権法における補償金スキームによる利益配分モデルの補完に関する研究
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21K20091
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
孫 友容 佐賀大学, 経済学部, 講師 (40905767)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 補償金スキーム / 著作権法 / 利益配分 |
Outline of Annual Research Achievements |
著作権法における「オール・オア・ナッシング」的な利益配分モデルは、原則上、著作物の利用を巡る利益をすべて著作権者にいったん帰属させることによって、著作権取引の基本的秩序を作り上げ、合理的かつ効率的な役割を果たしてきた。しかしながら、情報通信技術が日進月歩する現在、日常的に行われている著作物の利用行為に必要以上に違法性を帯びさせてしまうだけではなく、長期的には情報通信技術の発展またはその方向性にマイナスの影響を与える可能性もある。 これに対し、補償金スキームという利益配分モデルは、著作権法においてなおマイナーで例外的な存在ではある。教育目的の利用に係る補償金、私的録音録画補償金、放送同時配信等に係る補償金などの補償金スキームのメカニズムについて分析を行った結果、補償金スキームは、主に公益アプローチとロビイング・アプローチによって成立することがわかった。 公益アプローチによって成立した補償金スキームによって、利用者は、著作権許諾を逐一得ることが極めて困難または非効率的である著作物の利用自体を放棄することを回避することができる一方、権利者側にとっては、権利行使が極めて困難または実質的に不可能だった利用行為について有償化するためのツールにもなる。 ロビイングアプローチによって成立した補償金スキームは、権利者側にとって、これまで自由な領域に置かれていた行為を権利の範囲内に引き戻すためのツールになり、また、利用者側にとって、迅速に新たな利益構造を成立させるためのツールになる。 したがって、補償金スキームは、それぞれの成立するアプローチによって異なる側面から「オール・オア・ナッシング」的な利益配分モデルに対して補完的役割を果たすことができるが、少数派バイアスという著作権法の構造上の問題を依然として抱えているだけではなく、制度運用コストと利用者負担の課題も内在する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①日本の著作権法における補償金スキームに関する制度論的研究と政策論的研究を行い、その成立と運用のメカニズムを解明するとともに、政策決定過程における問題点を抽出、分析することができた。また、これらの研究成果を予定より早く公表することができた。 ②新型コロナウイルス感染症により、予定されていた海外調査を行うことができておらず、文献調査にとどまっている点においてはやや遅れていると言わざるをえない。 この2点を総合した結果としておおむね順調に進展しているということができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで得られた研究成果の精緻化を図ると同時に、補償金スキームにおいて懸念されている国際条約の義務遵守問題を念頭に置きながら、欧米をはじめとする諸外国の立法例や制度の運用実態に関する文献調査を進めつつ、海外調査を行うことによって、比較法の視点から本研究の内容と成果の客観視を目指したい。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外調査や国内調査・研究打ち合わせは新型コロナウイルス感染症の拡大によって中止せざるをえなかったため、旅費の支出がなくなったが、感染症の終息により海外や国内調査が可能になったため、次年度に使用したい。 また、当初は欧米法関係図書を現地調査する際に選別して購入する予定であったが、現地に赴くことができなくなったため、書籍購入の予算も残額が生じている。次年度は、迅速に比較法研究を展開するために、国内外の研究者と意見交換した上で、必要と思われる外書を直接に購入したい。
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