2021 Fiscal Year Research-status Report
Role of Domestic Courts in the ICSID Award Enforcement System
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21K20094
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
田村 侑也 中央大学, 法学部, 助教 (70908037)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | ICSID仲裁判断 / 国際投資仲裁 / 仲裁判断の承認・執行 / 主権免除 / 投資家対国家の紛争解決(ISDS) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の下で、2021年度は、国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約(ICSID条約)に基づいて下されたICSID仲裁判断の承認・執行場面における、執行地の主権免除法の適用関係について主に検討し、論文として発表した。 投資受入国を敗れた当事者とするICSID仲裁判断が下され、その承認・執行がICSID条約締約国の裁判所において求められた場合に、当該受入国が、裁判権免除の抗弁を提起することがある。近時、豪州連邦裁判所は、そのような裁判権免除の抗弁を、連邦制定法である外国国家免除法の下で退けた。 執行地たるICSID条約締約国の裁判所が、投資受入国による裁判権免除の抗弁を、自国の主権免除法の下で退けるそのようなアプローチは、米国の裁判例にもみられる。とはいえ、ICSID条約は、その締約国に対してICSID仲裁判断の承認・執行義務を課しており、また承認・執行手続において執行地の国内法が適用されるのは、強制執行の場面のみであると解される。このことに照らせば、投資受入国が裁判権免除の抗弁を提起した場合に、執行地の裁判所は、自国の主権免除法ではなく、ICSID条約それ自体またはその国内実施法に基づいてその主張を退けるべきである。このようにすることで、ICSID条約締約国の裁判所における裁判権免除の問題の処理方法の統一、およびICSID仲裁判断に対する審査の可能性の排除に資すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の下で、2021年度に行う内容には主に、ICSID仲裁判断の執行手続における裁判権免除の適用可能性、およびICSID仲裁判断に基づく強制執行における執行対象財産の範囲の2つがあった。このうち、前者については、上述・研究実績の概要の通り、おおむね計画通り進めることができた。後者については、2022年度前期まで継続して実施する計画であり、現在は、論文の執筆段階にある。以上により、「おおむね順調に進展している。」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の下で、2022年度に行う内容には主に、ICSID仲裁判断に基づく強制執行における執行対象財産の範囲、および本研究の総括的検討の2つがある。このうち前者については、上述・現在までの進捗状況に記載の通りである。後者については、2021年度中から少しずつ作業を進めており、英国・米国・豪州の3か国について、ICSID仲裁判断の承認・執行手続を比較・検討し、我が国における承認・執行手続について示唆を得るとともに、現状のICSID仲裁判断執行システムの構造的な限界を特定することを目的とする。 この総括的検討においては、第一に、ICSID仲裁判断の承認・執行手続に際して訴訟の提起を求める米国と、一方的な申立てによる手続を可能としている英国・豪州とに区別し、そのような手続の違いの背景を明らかにするとともに、それぞれの手続の妥当性を評価する。またその際には、各国国内手続法上のICSID仲裁判断の承認・執行手続の位置付けを明らかにするために、外国判決およびICSID以外の仲裁判断の承認・執行手続との比較も行う(この比較の作業については、当初の研究計画に比べて、調査範囲および検討項目の拡充となる)。 その上で第二に、現在議論が進められている投資家対国家紛争解決(ISDS)制度の改革について、欧州連合(EU)による常設投資裁判所制度、また国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)ワーキンググループIIIにおける議論を主な分析対象として、投資紛争に関する仲裁判断(裁定)の執行制度の問題点の洗出しを行い、我が国の視点から政策的提言を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、まず、2021年度に行ったICSID仲裁判断の執行手続における裁判権免除の適用可能性に関する研究において、図書・資料の購入が計画よりも少なかったことがある。また、ICSID仲裁判断に基づく強制執行における執行対象財産の範囲に関する研究については、2021年度後期から2022年度前期まで継続して行う計画であり、2021年度中に購入・支払いをした図書・資料の一部の執行・処理が、年度をまたぐことにも起因する。 2022年度には、上述の通り、ICSID仲裁判断に基づく強制執行における執行対象財産の範囲に関する研究、および本研究の総括的検討を行うことを計画している。特に総括的検討においては、当初の研究計画よりも調査範囲・検討項目を拡充することから、2021年度の未執行額を当てることにより、本研究課題の内容を深化させることとしたい。
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Research Products
(1 results)