2021 Fiscal Year Research-status Report
市民の選好と事業評価から見る公共事業の手続的公正の意義:行動行政学アプローチ
Project/Area Number |
21K20113
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡邉 有希乃 早稲田大学, 政治経済学術院, 助手 (60906155)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 公共事業 / 手続的公正 / 市民評価 / 行動行政学 / サーベイ実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、公共事業の事業者選定過程で競争入札手続の公正性を確保する意義を明らかにすることを目的に、日本の一般市民を対象としたサーベイ実験を実施した。 公共事業プロセスの公正性に関しては、公正な競争の下で守られる市民の経済利益と、むしろ競争抑制下で追求が容易になる工事品質とのトレードオフを背景に、公正確保の利点を巡る論争が続いている。その要因は、既存の議論が、事業に関する市民利益の所在を事業提供者側の視点で一方的に想定してきた点に見出されることから、本研究では、受益者である市民の選好と事業評価の観察を通じてこの論争に一定の解決を与えることを目指し、市民の認識を問うサーベイ実験を行った。具体的には、公共事業を巡る価格と質のトレードオフの中で、1)市民は自らの選好をどこに位置づけるのか、規定要因は何か、2)プロセスの公正性は市民の事業評価にどのように影響するのか、3)選好に適う帰結の実現と手続の公正さとはどちらが優先的に評価されるのか、を明らかにするため、i)公共事業の諸属性と市民の選好との関係を調査するコンジョイント実験、ii)架空の河川整備事業に関するシナリオを用いた要因配置実験を実施した。 分析の結果、市民は1)全体的に価格より質を重視する選好を持ち、その傾向は箱モノ事業よりインフラ整備において、また利用頻度の高い施設に関する事業において顕著なこと、2)プロセスが公正であるほど高い事業評価を与えること、しかし3)手続の公正さよりも選好に適う帰結の実現の方を優先的に評価すること、ただし2)の効果が3)の効果を(相殺しないまでも)減ずるケースがあることが判明した。以上により、市民は公共事業プロセスの公正性を一定程度重視するものの、より質の高い工事が得られる場合には不公正な手続を容認する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度においては、当初より予定していた予備実験を完了させることができた。その結果、実験刺激に対する被験者の反応の傾向や、実験刺激以外の側面で被験者が抱えている選好、政治・行政知識の程度など、本実験の設計を修正・精緻化するに足る有力な情報が得られた。 これらの情報をもって再度実験設計を吟味することで、課題の最終年度にあたる2022年度中には、本実験の実施、および一定の研究成果を得ることが叶うと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度中に実施した予備実験において、実験実施上、以下に挙げる二点の課題があることが判明した。第一に、手続的公正・品質・価格という三つの変数を同時に扱い、被験者にそのトレードオフ関係についての考察を求める実験設計は複雑性が高く、実験刺激が有効に作用していない可能性があると同時に、観察者にとっても実験データの解釈が困難になる。第二に、実験で提示する架空のシナリオの題材について、予備実験で採用した河川整備事業をめぐるシナリオでは、現実社会で直前に発生した豪雨災害等の影響を受けて被験者の態度が変化しやすく、結論の安定性に欠く可能性がある。 従って2022年度においては、実験設計を単純化したうえで、より一般性・普遍性の高い公共事業を題材としたシナリオにより再度サーベイ実験を実施する。具体的には、被験者に与える実験刺激について、手続的公正に関する情報の種類と、公共事業の帰結に関する情報の種類との対応関係を固定化する。これにより、考慮すべき変数の種類を減ずると同時に、手続的公正そのものに対する被験者の純粋な反応を抽出することを目指す。また実験シナリオについては、道路整備など一般性の高い事業を題材としたものに差し替えるほか、道路や河川施設等のインフラ整備とは性質の異なる事業(例えば公民館の整備のような、いわゆる「箱モノ」事業)を題材としたシナリオを用いる実験群も追加し、結論の普遍性を高める工夫を行う。 以上のように実験設計を修正したうえで、2022年度中に本実験を複数回実施し、分析を経て学術誌等で研究成果を発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度中に実施した実験は簡単な予備実験であったこと、また、本助成金の交付決定は2021年9月・交付開始が10月であり、所属機関における経理処理日程の都合も加味すれば実質的に支出を行える期間は3か月間程度であったことから、2ヵ年度に均等に割り振られた交付金額を、この3ヵ月間ですべて支出するには至らなかった。 しかし、本研究課題において最大の支出となる2回の本実験は2022年度中に実施され、インターネット調査会社に依頼した大規模なサーベイ実験を行うことを予定しているため、未使用額の大半はこの本実験のために支出されることとなる。 それでもなお残る未使用額については、データ分析に使用する統計ソフトのライセンス契約や、参考図書の購入費用、論文執筆にかかる校正の費用などに充てられる予定である。
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Research Products
(1 results)