2023 Fiscal Year Annual Research Report
市民の選好と事業評価から見る公共事業の手続的公正の意義:行動行政学アプローチ
Project/Area Number |
21K20113
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
渡邉 有希乃 専修大学, 法学部, 講師 (60906155)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 公共事業 / 手続的公正 / 市民評価 / 行動行政学 / サーベイ実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、公共事業の事業者選定過程で競争入札手続の公正性を確保する意義を明らかにすることを目的に、日本の一般市民を対象としたサーベイ実験を実施するものである。 2023年度は、予備実験(21年度中に実施)の結果、およびそれにもとづく実験設計の再検討(22年度中に検討)状況を踏まえたうえで、修正後の実験計画に従った本格調査を実施した。具体的には、インターネット調査会社への委託により、日本国内の18歳以上の男女5400名を対象に、オンラインアンケートを配信した。 収集したデータを用いて回帰分析を行ったところ、次のような含意を得た。第一に、市民は公共事業の実体的な側面について、工事費用の削減よりも工事品質の確保をより重視しており、その傾向は、自らの利用頻度が高い施設に関する事業において顕著であった。第二に、事業の手続的な側面については、事業者選定過程で入札談合等の逸脱した手続きが行われた場合、市民はその過程に対する不公正認知を高め、事業そのものに対する評価をも低下させることが示された。 以上2点を踏まえて第三に、市民は、たとえ談合が行われた場合でも、「市民の利益に資する」かのように思わせる理屈でそれを正当化した言説に触れると、不公正認知を弱めて事業評価を改善することが示された。とりわけ、「工事品質の確保が期待できる」という言説が流布された場合に、その傾向は顕著になった。 「談合は工事品質維持のための必要悪である」なる主張は、日本の建設業界が古くから自己擁護的に展開してきた議論であり、その実体的な真偽は定かではない。しかし本研究の分析結果からは、不公正な手続きが介在した政策でも、市民の公正認知の歪みを経由して、受容可能な位置を獲得する可能性があることが示唆される。よって今後は、市民が持つ課題意識を、不公正な手続きを正当化する言説にすり替えさせないための方策について、検討していく必要がある。
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