2021 Fiscal Year Research-status Report
明治10年代の地域社会における多数決の規範化と近代的政治秩序の形成
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21K20116
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊故海 貴則 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (90906744)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 多数決 / 地租改正 / 町村会 / 政治社会 / 地租改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、遠江地域における地租改正と町村会・連合町村会の関係性について、榛原郡と城東郡を中心に検討した。まず、明治0~10年代における当該地域の運営実態に関する史料(静岡県歴史文化情報センター所蔵「鷲山家文書」「佐塚家文書」)を遠隔で入手した。その後、コロナ流行が落ち着いたタイミングで、2回の現地での史料調査を実施し、明治0~20年代の城東郡内の町村会、地租改正に関する史料(菊川市立図書館菊川文庫所蔵「佐野家文書」「山田家文書」)。城東郡役所の布達や連合町村会の史料(菊川市立図書館菊川文庫所蔵「松下家文書」)を調査した。 以上の調査を通じて、以下が明らかになった。浜松県では静岡県合併直後の明治9年9月、「遠江国州会」において、地租改正の方法が審議された。その結果、地位等級方式の採用と村→小区→連区の積み上げ式による「連環」の実施と、11月を目途に各小区会で小区内の地位詮定方法の詳細を確定することが取り決められた。この決定をうけて、第三大区榛原郡二十五小区会では地位詮定方法が議論された。その結果、各土地の地位は戸長らの過半数制の多数決で判定することに決定した。こうして地租改正をめぐり、議会の外部においても多数決が採用された。この状況をふまえ、静岡県は明治12年3月に静岡県布達「甲第六十一号」(「町村会規則」)を布達し、土地所有者たる〈個人〉(男性家長)の代表で構成され、一人一票の多数決と予算制度を規定した町村会の開設を指示した。こうして村請制は解体し、各村で町村会の設置がされた。また、町村会の開設をふまえて、城東郡では明治15年に連合町村会が開設された。かくして、村レベルにまで〈個人〉(公民)が活動する政治空間=議会が成立した。 以上の成果の一部は、国内学会における大会報告や論文として公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は、新型コロナ感染症の流行に伴い、当初計画していた現地調査を一部断念するなど、予定通りに研究が進まないこともあった。しかし、最終的には2回の調査と、学会報告と論文刊行につなげることができたため、おおむね順調に進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、遠江地域の町村会と連合町村会を事例に、多数決が定着する過程を検討する。その際、多数決による地域運営で生じた弊害について、町村会や連合町村会で生じた利害対立について検討する。調査する史料は、城東郡の連合町村会の残る、菊川市立図書館菊川文庫所蔵「松下家文書」、大日本報徳社所蔵「岡田家文書」を計画しているが、新型コロナの流行をふまえて、現地での調査には慎重を期したい。また、流行の拡大によっては、自治体史の分析や遠隔複写可能な史料の重点的分析などにシフトすることも想定する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の流行に伴い、予定していた調査を複数回断念せざるを得なかったほか、本科研費申請後に別の研究助成を獲得したため、そちらの研究助成で調査旅費や書籍等の物品費を支出することになり、本科研費での旅費や物品費支出が予定よりもかからなかった。そのため、次年度使用額が生じることになった。 2022年度は、別の研究助成を得ていないことから、本科研費で調査旅費を支出する。恐らく、新型コロナ感染症の流行は、徐々に収束すると思われることから、今年の夏以降、随時、現地調査を実施する予定である。また、2022年度は単著刊行を予定していることから、校正にかかわる院生のアルバイトを雇用するなど、繰越金を人件費・謝金に活用する計画である。以上を通じて、本研究を着実に実行していく。
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