2021 Fiscal Year Research-status Report
The effects of trade liberalization on economic growth and income inequality through multiple educational stages
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21K20149
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅海 達也 大阪大学, 社会経済研究所, 特任研究員 (90907726)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 貿易自由化 / 教育選択 / 所得格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は貿易自由化が個人の教育選択の変化を通じて経済成長と所得格差に及ぼす影響を分析する。本年度は短期的には資本蓄積を通じた成長があるが、長期的には資本ストックを含むマクロ経済変数が一定になるモデルを用いて、貿易自由化が所得格差に及ぼす影響に焦点を当てた。 理論的な分析では、貿易自由化による農業財価格の上昇が長期的に資本ストックを増加させて、高等教育を促す利子率下落に結びつく条件を導出した。この条件とは資本分配率の部門間での差異が十分に小さい下で、資本ストックと利子率が正の関係にあり、かつ農業財価格上昇による資本ストックの増加効果が資本サービス需要の増加効果を上回るというものである。このような状況で農業財価格それ自体の効果が大きいと、貿易自由化は長期的に中等教育を減らすが、その一方で高等教育を増加させることになる。このとき熟練・非熟練労働者間の所得格差は縮小するものの、熟練労働者同士の所得格差は反対に拡大することが明らかになった。 定量的な分析では、教育選択の変化と所得格差の推移を示した。ここで注目するのは移行過程中の資本蓄積である。貿易自由化による中等教育に関する選択と熟練・非熟練労働者間の所得格差への影響には農業財価格上昇効果が大きいが、高等教育に関する選択と熟練労働者同士の所得格差にはこの資本蓄積を通じた移行過程での利子率下落効果が重要になる。実際に貿易自由化直後で農業財価格の上昇による資本蓄積が不十分なときは、高等教育を受ける個人の増加が小さく、所得格差拡大もわずかである。時間を通じて資本蓄積が進むと、高等教育を受ける個人がより増加し、格差もより拡大する。このような資本蓄積の重要性は実証分析でも示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貿易自由化による農業財価格の上昇と利子率の変化との関係を一般的な状況で明らかにすることや、所得格差変化のメカニズムを所得格差の分解を通じて明確化することに想定よりもやや時間がかかった。ただし貿易自由化が複数の教育段階を通じて所得格差に及ぼす影響の分析はほぼ終わっており、論文の作成もほぼ完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度では貿易自由化による価格の変化とそれによる個人の教育選択の変化が経済成長に及ぼす影響と、その影響が所得格差にもたらす効果を分析する。実際にモデルの大枠の案は先行研究の調査を通じて複数出ており、そこから一つに絞って複数の教育段階を導入できる枠組みを構築する。これによって貿易自由化が経済成長と所得格差に及ぼす影響における教育選択の変化の役割を解明する。さらに貿易自由化の教育選択への効果を変えるような教育補助金が、貿易自由化による経済成長と所得格差への影響をどう変えるのかについても明らかにする。
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Causes of Carryover |
貿易自由化と所得分配の論文が完成しなかったため、英文校閲費の支出がなかった。このため生じた次年度使用額は翌年度の助成金と合わせて英文校閲費に使用する計画である。
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