2021 Fiscal Year Research-status Report
日本の輸出企業の為替リスク管理とその決定要因:政府統計個票を用いたパネル分析
Project/Area Number |
21K20172
|
Research Institution | Ministry of Finance, Policy Research Institute |
Principal Investigator |
吉元 宇楽 財務省財務総合政策研究所(総務研究部), 総務研究部, 研究官 (30908207)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 為替レート / 輸出企業の価格設定行動 / パススルー / インボイス通貨 / Pricing-to-market (PTM) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、変動相場移行後、様々な為替変動リスクに晒されてきた日本の輸出企業を対象に、複雑な貿易構造や為替戦略を加味した上で、輸出価格設定行動やその決定要因について分析を行う。具体的には、時変パラメータモデルを用いて輸出品目別の為替パススルー率を推計し、政府統計の企業個票データに基づく説明変数を構築して、為替パススルー率の決定要因を分析する。手法としてはまず、(1)品目固有の要素を考慮したうえで、輸出価格設定行動の変化を確認するために、時変パラメータとして為替レートパススルー率を輸出品目ごとに推計する。次に、(2)前段で推計したパススルー率を被説明変数として、パネル分析を行う。その際に、政府統計に使用される企業の個票データを輸出品目別に統合することで説明変数を構築する。本研究は、こうした国際的な生産連鎖を展開する日本企業の為替戦略を実証的に分析することで、先行研究にはない日本の輸出企業の価格設定行動の決定要因を研究し、マクロの経済現象への含意を導き出す。 これまでの研究実績としては2005年から2018年までの為替データと輸出物価指数を活用し、カルマンフィルタの手法によってパススルー率を推計した。その結果、輸出品目間で大きくパススルー率が変わることが判明した。これは「研究の目的」で示した「輸出品目が最終財であるか中間財であるかによる為替戦略の違い」について一定の実証結果を示すこととなった。また、(2)政府統計の企業個票データとして、経済産業省の企業活動基本調査を活用し、説明変数を構築した。企業個票データは生産している主要品目を特定し、品目別のデータとマッチングさせている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
個票データの取得に想定以上の時間がかかってしまった他、所属機関における業務負担の増加により、データの構築開始が遅れていた。その遅れがデータ構築・実証分析のスケジュールを遅らせ、本年度の「やや遅れている。」が妥当であると判断した。 しかしながら、事前のデータ構築の準備や先行研究の精査により、個票データの取得申請中も可能な範囲で研究を先に進めていた。そのため研究終了時点ではおおよそ想定通りの成果が出るのではないかと考えている。 具体的には、企業個票データの整理・統合に関してはおおよそ終了しており、その他の変数に関するデータ収集も完了している。一方で、分析結果や手法に関しては依然検討の必要があると感じている。これらの研究改善を経て、意義のある研究結果を出し、学術的に貢献できる論文を目指す。 また、必要に応じてデータのサンプル期間を延ばすことも考えている。コロナ危機の前の2019年までのデータを構築することで、2007年から2012年中旬までの円高期、2012年後半から2015年までの円安期、2016年以降のpost-円安期と複数の為替トレンドの上を加味した研究が行えると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては、輸出品目による為替戦略の違いを重視したうえで、為替レートが貿易や輸出企業に及ぼす影響を実証分析によって明らかにするために、以下の3点について推し進める。 (1)現在構築している企業個票データ由来のデータセットを活用した分析を進める。その際に、いくつかの分析手法を用いて精緻な実証分析を目指す。具体的には、まず為替レートパススルー率の時変パラメータ推計において、いくつか有意ではない分析結果が散見されるため、カルマンフィルタを活用した分析方法を見直す。さらに、本研究の主となる貢献である為替レートパススルー率の決定要因については、IVモデルやSystem-GMMモデルなど内生性に考慮した分析手法を活用する。変数においてもダミー変数や交差項を活用することにより、企業別・品目別の影響だけでなく、為替トレンドに着目した分析を引き続き行う。 (2)現在、売上高や従業員数などの基本的な財務情報に加えて地域別の海外売上高、輸出競争力の源泉となる研究開発投資などのデータ(2005年~2018年)を活用して分析を行っている。(1)の分析結果如何では、2019年のデータやマーケットシェアなどデータセットの拡張を目指す。その際は、企業活動基本調査においても利用できる変数を再度検討する。 (3)財務省内での発表を経て、財務総合政策研究所のDPとして発表する。その後、国内外の学会発表や学術誌への投稿を目指す。
|
Causes of Carryover |
本年度はコロナウイルスの影響により国内外学会への参加ができず、旅費としての経費支出がなかった。来年度に関しては国内外学会への参加を含め、必要な機器や書籍の購入などを通じて適切な形で科研費を利用したいと考えている。その他の経費としてWi-Fi通信費を計上しているが、半導体不足の影響か契約価格が上昇していたため、想定の経費よりも多くなった。その他直接経費の増加分は人件費・謝金の減少によって対応した。 購入予定物品に関しては、学会や他の研究者からアドバイスを受けるためのMTGなどにおいてコミュニケーションをより円滑に取るためのタブレット端末購入や計量分析や国際経済学にかかる書籍の購入を計画しているが、コロナウイルスなどの影響がいまだにあることから、学会の参加状況によって経費の使用用途が変更されることも考えられる。
|