2023 Fiscal Year Annual Research Report
在日外国人に対する母語教育の展開と課題に関する研究
Project/Area Number |
21K20174
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 優香 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (60907799)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 母語教育 / 移民第二世代 / 親子間コミュニケーション / 移民の社会統合 / 外国人児童生徒 / 母語・継承語 / 多文化共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず実施済みの「親子の言語使用と言語学習に関するアンケート調査」の集計と翻訳作業を行った。フィリピン人家庭を中心に調査協力が得られたことから、2020年に実施したブラジル人家庭向けのアンケート調査結果との比較考察が可能となった。フィリピン人の家庭内言語はブラジル人家庭と比較すると多様であり、日本語やタガログ語のほか、フィリピンの地方の方言や英語も用いられている。数名の保護者は、子どもにタガログ語ではなく英語能力の向上を希望しており、英語を公用語とするフィリピンという出身国の影響があらわれていると言える。他方で、言葉が原因で親子の会話に困難を感じることも少なくないようであり、進路や将来に関する話題では、日本語を用いて親子で会話することが難しいという回答が散見された。 次に、ブラジル人が集住する静岡県浜松市で土曜日に開催される勉強会での現地調査から、現場での実践状況を明らかにした。第一にこの勉強会は小学生から高校生を対象としているが、母語授業としてのポルトガル語クラスの対象は小学生のみであった。この理由として、早期の段階でポルトガル語を定着させた上で、中学生以上は日本語での学習に注力すべきという考え方がある。第二に、ポルトガル語の授業方法として、子どもたちは同様のテキストを用いるが、各ポルトガル語能力に合わせ学習進度にはばらつきがあり、かつ自主学習が中心であった。各家庭のポルトガル語使用環境のちがいから、子どもたちのポルトガル語能力の前提知識には差異がみられる。現地調査からは、子どもがポルトガル語学習を通じて、ブラジルという国に対する共感を得ることが期待されており、アイデンティティへの働きかけが重視されていることが分かった。他方、ポルトガル語の学習はホスト社会が対応すべきものというより、個人やコミュニティの問題として認識されているという日本の実情が垣間見えた。
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