2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K20176
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
河村 裕樹 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (10906928)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 精神医療 / 専門性 / エスノメソドロジー / 医療社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、異なる専門性を有する専門家が、どのようにして互いの専門性を理解し、協働することが可能なのかという本研究の目的のもと、調査協力先の医療機関におけるフィールドワークを継続的に行い、あわせて当該医療機関の精神科医局に在籍する精神医療従事者にインタビュー調査を実施した。得られたデータをもとに分析した結果をまとめ、質的心理学会と日本社会学会で報告した。 質的心理学会では、調査が必ずしも容易ではない精神科医療機関という場所で、遠隔でのフィールドワークを行う際に生じる困難を方法論的に乗り越える方策を論じた。日本社会学会では、異なる職種が協働で治療にあたる精神医療場面において、異なる専門性についての理解がどのようにして可能となっているのかを、データをもとに論じた。 これらの研究活動を通して明らかになった本研究の成果が有する意義は、次のとおりである。第一に、これまで精神医療従事者が自明視してきたケースカンファレンスでのやり取りにおいて、どのようなタイプの知識がどのように用いられているのかについて、その実際の一端を記述したことである。第二に、これまで研究の対象とされてこなかった精神医療機関において行われているケースカンファレンス場面で、厚みのある調査を実現したことである。これらの意義は、分析者が分析の結果を既存の理論に当てはめたり解釈したりするのではなく、実践の参与者の志向に即して記述するエスノメソドロジー研究の方法論的態度において調査研究を進めることを、精神医療従事者の協力を得ることによって可能としたことである。 このように、本研究は既存の研究が焦点を当ててこなかったケースカンファレンス場面に着目し、多職種協働を可能にしている知識の用いられ方を明らかにしたという点と、エスノメソドロジー研究の方法論的態度の可能性を示したという点において、意義のある研究であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に基づき、2021年10月に開催された日本質的心理学会第18回大会において、「記述のチュートリアル性――精神科症例検討会におけるワークに着目して」と題して、本調査の方法論的な意義と課題について報告した。また、2021年11月に開催された第94回日本社会学会大会において、「精神医療における専門性――症例検討会に着目して」と題して、多職種協働を可能にする専門的知識の用いられ方の一端を報告した。 ただし、研究計画の段階では、2022年5月に開催される日本保健医療社会学会においてテーマセッションを企画・実施する予定であったが、Covid-19の影響による開催方法の変更や登壇予定者の都合から、実現しなかった。このため、やや遅れていると判定した。 また、研究計画のとおり、精神医療従事者とともに勉強会を開催したり、精神医療に関する研究会に参加したりすることで、本研究の知見の宛先を増やしたり、臨床家との協力関係を築き上げたりした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本研究を推進するにあたり、引き続き症例検討会におけるフィールドワークと、診療場面の会話データ収集を行う一方で、成果を公開することにより重点を置く。 具体的には、ケースカンファレンス場面の観察を続けるほか、フォーカスグループインタビューを実施することで、知見の妥当性を高めていく。ただし、Covid-19の影響が引き続き予想されることから、オンラインでの調査がメインとなる可能性が高い。そこで、方法論的な手法を洗練するとともに、関連する議論をフォローすることで、オンライン調査に伴い生じる課題に対応する。 また、精神医療従事者とともに勉強会を開催したり、得られたデータを本人たちとともに検討する機会を設けたりし、データ分析の妥当性を高めたり知見の宛先を広げたりするよう努める。 これらを実現するために、成果を報告する機会を設けていく。具体的には、これまでの調査で得られた知見をもとに2022年9月締切の日本保健医療社会学会機関誌『保健医療社会学論集』に投稿することで、保健医療社会学における精神医療研究を進展させる。そして、2022年10月に開催予定である日本社会学会において報告をし、社会学における本研究の知見を位置づける。また、精神医療従事者にも知見を還元するために、2022年6月に精神医療従事者の専門学会である日本精神神経学会と、10月に開催される日本総合病院精神医学会にて報告する。そして得られた知見をもとに、『総合病院精神医学』誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
Covid-19の影響により、現地での打合せ等が不要となったために次年度使用額が生じた。次年度使用額については、現地開催となった学会に参加する際の費用や、論文を投稿する際に生じる必要経費などに充てる計画である。
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Research Products
(2 results)