2022 Fiscal Year Research-status Report
Social Mobility of Immigrant Youth in U.S.: Focusing on the Impact of Social Stratification by DACA Program
Project/Area Number |
21K20177
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
飯尾 真貴子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 講師 (50906899)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
|
Keywords | 選別的移民政策 / DACAプログラム / 非正規移民 / シティズンシップ / 社会階層移動 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
越境的な国際移動が世界的に拡大するなかで、欧米を中心とする移民受入国では、「違法性」や「犯罪性」に結びつけられた移民を国外へと排除し、特定の条件を満たす「望ましい移民」を社会へと包摂する選別的移民政策が進行してきた。 特にアメリカ合衆国(以下、米国)では、革新を期待されたオバマ政権の下で、皮肉にも年間40万人にも及ぶ大規模な強制送還政策が拡大する一方で、幼少期に移住し滞在許可を持たないまま米国で社会化されてきた移民1.5世代を対象とする「DACAプログラム(若年移民に対する強制送還延期措置)」(以下、DACA)が実施され、約80万人におよぶ非正規移民の若者が、一時的に強制送還の対象から外れ、2年毎の就労許可を獲得してきた。 本研究の目的は、2012年より米国で実施されている、特定の非正規移民の若者に対して暫定的な権利を付与するDACAが、若者たちにどのような影響を及ぼしているのか、彼ら・彼女らの社会移動の経験に着目し検討することである。 新型コロナ感染症拡大のため、米国での現地調査ができなかった期間は、(A)DACAをめぐる政策的変化と現状分析、(B)アジア系移民と非正規性をめぐる経験に着目した資料調査を中心に研究を進めた。その後、2022年8月に米国への渡航が可能となったことから、米国カリフォルニア州ロサンゼルス近郊を中心にフィールド調査を行った。ロサンゼルスを中心に活動する複数の支援団体とつながることで、DACA受益者だけでなく、様々な事情でDACAの対象から漏れた若者たちにもアプローチすることが可能となった。また従来の先行研究が、主にラティーノ系移民に偏重してきたことをふまえ、2022年8月のフィールド調査ではアジア・パシフィック系移民に重点的に聞き取りを実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍によるフィールド調査による遅れを取り戻すべく、2022年8月に米国カリフォルニア州ロサンゼルス近辺でフィールド調査を実施した。従来の先行研究では、①ジェンダーや人種・エスニシティなどの多様性をふまえた具体的な経験の差異、②同じ移民1.5世代でも、様々な理由で権利を獲得できなかった層の経験が十分検討されていないという限界がある。これをふまえて、メキシコや中南米出身のラティーノ系移民だけでなく、アジア・パシフィック系移民にアプローチすることを試みた。また、DACA受益者だけでなく、様々な事情でDACAを取得できずにいる非正規移民の若者たちにもアプローチすることを試みた。 その結果、フィリピン系、韓国系を中心に数名のDACA受益者および非正規移民の若者たちに聞き取りを実施することができた。現在、聞き取りデータのトランスクリプト化とともに、それらの分析を進めているところである。得られた知見については、まだ整理の途上にあるが、これまで聞き取りを行ってきたドリーマー運動や移民権利援護運動に積極的に参加していたラティーノ系移民の多くに共通していた越境経験や非正規移民としての認識の覚醒といった共通の語りと対比して、アジア・パシフィック系移民の若者たちは、米国への移住歴が非常に多様であるがゆえに、そうした共通の語りが見られず、そのぶん運動につながるまで、長く家族以外と自分の法的地位について相談できない状況に置かれてきたことが伺えた。聞き取りをした調査協力者自身はインタビューの時点で何らかの形で移民の権利援護運動に関わっていることから、そうした運動に結び付かない非正規移民の若者たちは、同様にあるいはそれ以上に孤立した状況にあることが推測できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの先行研究の整理から、DACAプログラムに該当する対象者が全体の12%を占めるアジア系およびパシフィック諸島出身者の経験が十分検討されてこなかった。したがって、調査者がこれまで対象としてきたラテンアメリカ出身の移民だけでなく、アジア系およびパシフィック諸島出身の移民へのインタビュー調査を引き続き実施していきたい。2022年8月に実施したフィールド調査から、ラティーノ系移民とは異なる多様な移動経験とそれに基づく法的地位の複雑化が、同じような非正規移民の若者同士のつながりを妨げている要因になっている可能性がみえてきた。今後は、こうした点にも留意しながらインタビュー調査をさらに蓄積していきたいと考えている。また、これに加えて、メキシコ系移民のなかでも先住民性の強いオアハカ州出身のDACAプログラムの対象となる若者たちにも聞き取りを実施していく。同じラティーノ系移民であっても、先住民移民は特に米国の労働市場のなかで周縁化されており、こうした人々がDACA取得後にどのような社会上昇移動を遂げることができるのか、あるいはできないのか、検討していきたい。今後の具体的な予定としては、2023年8月あるいは2024年3月~4月にかけて、引き続きアメリカ合衆国におけるフィールド調査を実施する予定である。そして、今後さらにフィールド調査を重ね、分析に耐えうる質と量を備えたデータを蓄積していくことで、学会発表や投稿論文といった研究成果のアウトプットを目指していく。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の感染拡大とそれに伴う入国制限などによって、全体的にフィールド調査の予定が遅延してきた。したがって、遅れている研究計画を取り戻すためにも、残額を2023年度以降のフィールド調査の実施に用いたいと考えている。
|