2021 Fiscal Year Research-status Report
災害と厄災の教育の再検討――ランシエールの表象論を手掛かりに――
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21K20220
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
李 舜志 法政大学, 社会学部, 講師 (60907351)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶 / 災害 / 表象 / 教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は新型コロナウィルス流行により研究活動に様々な制限が強いられたが、オンラインでの研究会に参加し研究発表を行うなど、制限がある中で着実に研究を進めることができた。記憶と教育に関する論集を刊行する目的で開かれている研究会に参加し、自らの研究内容について多様な視点からのアドバイスと批判を聴くことができた。具体的には、記憶の継承と史実の葛藤、教育という実践とカタストロフィの記憶継承という実践との相性の悪さなど、今後理論と実践両面での検討を要する問題について議論することができた。 また、別の教育に関する論集の企画で「カタストロフィ」を担当するために、日本の学校教育でカタストロフィの伝達を担ってきた平和教育についてまとめる作業も行った。原爆投下や戦争という主題が、教育とどのように結び付いてきたのか、またその際どのような困難に直面し、批判にさらされてきたのか、これらの問いは本研究にとって避けて通ることのできないものであり、大いに参考になった。 また、感染状況が落ち着いた時期に仙台で調査を行った。仙台メディアテークで開かれている展示会に行き、NHK仙台放送局内にある被災地の様子を再現したVR機器を体験した。さらに震災遺構である荒浜小学校跡地に赴きどのように震災遺構が管理運営されているか調査した。その際利用したタクシーが「語り部タクシー」であり、運転手の方から震災についての語りを聴くことができた。このように震災の継承について様々な工夫がなされていることを知ることができ、そこから、やはり自ら継承の現場に出向くことの重要性を感得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、記憶と研究に関する論文と、日本の平和教育について「カタストロフィ」という観点からまとめた論文を執筆している(後者は英語)。論文執筆という点ではとても順調に進展しているが、本研究で焦点を当てるランシエールの議論についてはいまだ資料を収集し読解する段階であり、また論文という形で研究成果を発表する段階にはまだ至っていないため、総合的には「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記の二つの論文を仕上げ、その後にランシエールについて研究発表および論文を執筆する。また、仙台出張であらためて記憶継承の実践が多様であること、またそれは現地に足を運ばないと知ることができないと痛感したため、感染状況が落ち着いたころを見計らって、各地の記憶継承の実践について体験していきたい。
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Causes of Carryover |
本科研費は昨年の秋ごろに採用が決定されたため、4月現在では1年間で使用する予定であった額の半分程度を使用したに過ぎない。したがって残額を次年度使用額にまわした。 今年度は状況次第ではあるが、次年度使用額が生じ比較的費用に余裕があるので、昨年度実施できなかった国内でのフィールドワークを積極的に行う。広島や長崎、沖縄のように、記憶継承の蓄積が豊富な場所だけでなく、東日本大震災の遺構やミュージアムのように、近年誕生した記憶継承に関する施設や実践も調査する予定である。また、可能であれば記憶継承に関するツアーにも参加する。
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