2021 Fiscal Year Research-status Report
A Qualitative Research Study on the Practices of Schools and Third-Party Committees Regarding Child Suicide Cases
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21K20242
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
今井 聖 立教大学, 文学部, 教育研究コーディネーター (40907515)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 教育社会学 / 児童生徒の自殺 / 第三者委員会 / 事実認定 / いじめ / 教師の経験 / 事後対応 / エスノメソドロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、研究実施計画にもとづき、(1)児童生徒の自殺事件に対応した学校関係者へのインタビュー調査、(2)第三者委員会の調査報告書の収集・分析、(3)第三者委員会の委員経験者へのインタビュー調査を実施した。 (1)に関しては、在籍する児童生徒の自殺事件を経験した学校教員へのインタビュー調査を通して、特に、学校の事後対応が問題化されるかたちで事件が社会的に注目されるなかで、学校関係者が当事者としてどのような経験を強いられているのかを考察した。具体的には、児童生徒の自殺事件の対応を行った学校教員は、そのさらに後の時点において、対応の「不適切」さを遡及的に問題化される場合がある。その際、「事実」がどのようなものであったのかという争いが生じ、最終的には一定の仕方で決着づけられることになる。その様相を、「リアリティ分離」状況として捉え、考察した。 (2)に関しては、近年組織された第三者委員会の調査報告書の収集を継続的に実施した。また、収集済みの調査報告書をいじめの重大事態が疑われた事案とそれ以外に分類し、いじめの重大事態が疑われた事案において、いじめの有無、および、いじめと自殺の因果関係がいかに認定されているのかを分析した。今日のいじめに関する制度状況下において、いじめの存在を全く認定しない事例は相対的に少ないことが明らかになったと同時に、いじめの存在を認定しない場合に採用しうるロジックは限られていることを明らかにした。そうした分析・議論の一部は、第37回日本社会病理学会大会で発表した。 (3)に関しては、第三者委員会の委員経験者へのインタビュー調査を通じて、児童生徒の自殺という出来事やその背景・原因が、専門的な知識のもとで、一定の仕方で意味づけられていく際に用いられている方法を探究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、児童生徒の自殺事件が発生した場合に、(a)事後対応にあたる学校はいかなる困難を抱え込みうるのか、(b)第三者委員会によって行われる事実関係の調査にはいかなる実践的特徴があるのか、という2つの問いを設定している。 これらの問いに答えるために本研究では(1)児童生徒の自殺事件の事後対応にあたった経験を有する学校関係者へのインタビュー調査、(2)第三者委員会の調査報告書の収集・分析、(3)第三者委員会の委員経験者の経験についてのインタビュー調査を遂行する。 現在までのところ、特に(2)の調査課題については順調に進展している。これまでに入手した資料をもとにした内容分析も展開中であり、特にいじめ防止対策推進法に示されたいじめ定義との関係で、第三者委員会の事実認定と評価の実践をどう読み解くことができるかという点について、考察を深めている。その一部は学会発表として成果発表したが、今後さらに分析・議論を精緻化しつつ、学会発表や投稿論文としての成果発表を行うための準備を進めている。その作業においては、(3)の調査課題への取り組むことで得られた知見も生かすことができている。 (1)の調査課題については、現在までのところ協力を得ることができた調査対象者は相対的に少ないものの、近年の事例についての貴重な聞き取りが実現している。現在、事例検討を進めているところである。 以上の調査研究の進展を踏まえて、学会発表や学術論文執筆を遂行することができており、社会情勢上、一部の調査の実現が困難になってしまっている側面はあるものの、研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の調査研究の進展や研究成果を基盤として、今後は以下に記すような計画で研究を推進していく。 現在までに(1)から(3)の調査を実施しているが、当事者・関係者へのインタビュー調査に関しては着実に遂行してはいるものの、新型コロナウイルス感染症の流行状況もあり、特に(1)の調査課題に関して、新規の調査協力者を獲得することが通常よりも困難な状況が続いている。そのため、(1)と(3)の調査課題に関しては、過去に調査協力を頂いた対象者への追加での聞き取りなども視野に入れつつ、さらなる調査を行なっていく。 (2)の調査課題に関しては、既に十分な資料収集ができているため、収集された資料の全体像を把握しながらも、近年の児童生徒の自殺事件についての理解の特徴が現れている特定の事例に焦点化して、エスノメソドロジー的観点から分析を行なっていく。 また、2022年度にはさらなる調査を実現すると同時に、収集されたデータにもとづく分析を進め、積極的な成果発表を行なっていくことを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大状況の影響を受けて、予定していた対象者へのインタビュー調査が延期されたことで、インタビュー調査に係る旅費と、インタビューデータの文字起こし等の作業に必要となる費用の支出を行わなかったため、次年度使用額が生じた。今後、当初計画にしたがって、インタビュー調査を実施する際の旅費、文字起こしの作業委託の費用とするとともに、資料調査、文献調査を充実させるための経費として使用する。
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