2021 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の保育思想に関する歴史的研究―羽仁説子の保育思想に着目して―
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21K20251
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Research Institution | Yamanashi Gakuin Junior College |
Principal Investigator |
相田 まり 山梨学院短期大学, その他部局等, 講師(移行) (10910234)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 保育思想 / 戦後日本 / 羽仁説子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦前・戦後を通じて保育に携わり、子どもの権利や平和を守る活動に尽力した羽仁説子の思想の検討を通じて、「子どもの自由や主体性を尊重する」という保育の基本的な思想を再検討するものである。 本研究の主な課題は羽仁説子の文献から彼女の保育に関する思想を明らかにすることであるため、本年度は文献の収集と読解を進めた。羽仁は数多くの論考を残しており、本年度はその一部しか収集・読解を進められなかったが、これまでのところでは、羽仁の思想形成に関する以下の点が明らかになった。
①幼少期の羽仁は、母であり自由学園の創立者である羽仁もと子の影響を強く受けていた。特に、子どもであっても一人の独立した人格として尊重されること、何事も自分の意志で選択し判断すべきことなどは、羽仁の人格形成に大きな影響を与えており、後に子どもの権利を守る運動に身を投じることになる羽仁の思想の根幹をなす部分であると言える。
②女学校時代の羽仁は、関東大震災(1923年)での救援活動を機に、社会問題に関心を抱くようになった。災害が起こると貧富の差が露呈し、貧しい者ほど助からないという理不尽な状況を目の当たりにした羽仁は、これ以降、共産主義や社会主義について学び始めた。また、夫となる羽仁五郎との出会いなどを通じて、徐々に子どもの権利を守る運動に関わるようになっていった。なお、この頃自身の恋愛をめぐる問題から母・もと子との間に意見の相違があると感じるようになり、母からの自立を意識するようになっている。もと子の強い影響を受けながらも、社会運動という領域にみずからの道を見出し、社会をつくりかえていこうとする羽仁の強い思いをここにみることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
勤務校での業務(授業準備、学生指導、学校行事等)に時間がかかり、予定していた研究の時間が取れなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は以下の通りである。
①文献の収集・読解:引き続き、羽仁の文献の収集・読解を進める。幼少期、女学校時代を経て、次第に社会運動に関わるようになっていく中で、彼女の中でどのような思想の変化があったのか、また保育に関する思想はどのようなものであったのかを明らかにする。また、当時の保育や社会全体の状況、思想状況などに照らして、羽仁の思想や運動がどのような位置にあったのかを検討する。 ②関係者へのインタビュー:婦人之友社や日本子どもを守る会など、羽仁と関係のあった人物を訪ね、羽仁の活動や思想について、また当時の状況について、インタビュー調査を行う予定である。 ③保育現場の視察:戦前に確立された「子どもの自由や主体性を尊重する」という保育の基本的な思想が、時代の変化を経てどのように引き継がれているのかを知るため、各地の保育園・幼稚園・こども園を訪問し、視察する。 以上を通して、羽仁の思想を多角的な視点から分析するとともに、それが現在の保育にどのような影響を与えているのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも研究がおくれ、文献の購入、インタビュー調査、保育現場の視察等が行えなかったため、当初の予算を次年度に繰り越すことになった。次年度は、書籍購入、インタビュー調査の謝礼、保育視察の旅費等に予算を使用する予定である。
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