2021 Fiscal Year Research-status Report
Theory and Practice of Expressive Writing in the United States of America
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21K20264
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
森本 和寿 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (70909837)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | ライティング教育 / 自己表現 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は2ヶ年計画であり、今年度はその1年目にあたった。本研究では、アメリカ合衆国(米国)の自己表現を重視するライティング教育(表現主義)が、米国ライティング教育においてどのように位置づくのか、表現主義の代表的な論者であるピーター・エルボウ(Peter Elbow)がどのような理論と実践を展開したのかを検討することを通して、日本のライティング教育に与える示唆を明らかにする目的としている。本研究の1年目にあたる本年度は、本研究の基礎となる理論研究と実践研究の足場かけを行った。理論研究では米国のライティング教育史、特に表現主義の形成、展開の歴史を探った。歴史的なアプローチをとりつつ、研究者が専門とする教育方法学の知見を活かし、特にカリキュラム、授業、評価の観点から、表現主義のライティング教育がどのように形成・展開されてきたのかを、研究資料や政策文書、より具体的な授業者の実践記録や学習者が書いた文章のレベルで検討した。今年度の研究成果は、次の2本の論文(うち1本は査読あり)にまとめた。(1) 「米国におけるライティング教育・研究のバックグラウンド:ライティング教師を取り巻く文化と制度」(『教育学研究論集』19, 78-87) (2) 「ライティング教育における「ヴォイス」 :高等教育における表現と省察に関する実践的検討」(『大阪教育大学紀要』70, 191-207)。両論文を通して、本年度は米国における自己表現を重視するライティング教育の基礎となる理論部分を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は2ヶ年計画であり、今年度はその1年目にあたった。上に記載したとおり、今年度の研究成果は2本の論文(うち1本は査読あり)にまとめた。 一つは、「米国におけるライティング教育・研究のバックグラウンド:ライティング教師を取り巻く文化と制度」である。この論文では米国においてライティング教育を担ってきた「ライティング教師」たちが、どのような背景をもっていたのかを明らかにした。高等教育においてライティング教育は必ずしも高い専門性を認められていたわけではなく、それゆえにその担い手であるライティング教師たちは学術主体としては周縁化された存在であった。しかし、そのような歴史的・文化的背景が逆説的に働き、現在では多様性のあるライティング教育のカリキュラムが展開されている。 もう一つの論文は、「ライティング教育における『ヴォイス』 :高等教育における表現と省察に関する実践的検討」である。この論文では、アカデミック・ライティングにおいて書き手の「声」(ヴォイス)を表現することがどのように受容・批判されてきたのかを、具体的な実践を取り上げて検討した。日本における論調もそうであるように、伝統的にアカデミック・ライティングでは学生が自らの「声」、すなわち生活経験に基づく思いや考え等を書くことは忌避されてきた。高等教育では自己の主観を排して学問知を学ぶことが尊ばれてきたのである。しかし、このような学習のあり方は、学び手を疎外し、その主体化の妨げになる。自己表現を重視するライティング教育は、学び手の「声」を書くことを通して、その主体化を目指す実践を展開してきた。 以上のとおり、本年度は米国における自己表現を重視するライティング教育の基礎となる理論部分を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでに明らかにした表現主義の理論に基づきながら、具体的な実践の検討を行う。米国の教室において、自己表現を重視するライティング教育は、どのように実践されているのかを、カリキュラム、授業、評価という観点から検証する。先述のとおり、今年度は理論的な検討の一部として、米国ライティングの形成史(特にその教育主体であるライティング教師の歴史)を整理した。ライティング教育の歴史の中で、現代の理論はどのような位置づけになるのか、その理論はどこまで個別性をもち、どこまで一般化可能なのかを検討する。一連の検討を通じて、米国の自己表現を重視するライティング教育が、日本のライティング教育に対して与えうる示唆を明らかにすることも試みる。
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Causes of Carryover |
感染症拡大の影響で実施が難しかったフィールドワークがあったため。当該フィールドワークは次年度に実施する。
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Research Products
(2 results)