2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的随伴性検出にかかわる神経基盤の発達:ハイリスク乳児との比較研究
Project/Area Number |
21K20291
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
白野 陽子 慶應義塾大学, グローバルリサーチインスティテュート(三田), 特任助教 (20834154)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 社会的相互作用 / fNIRS / 自閉スペクトラム症 / 随伴性 / 脳機能 / 乳幼児 / 社会認知 / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、自然状況下の対人相互作用において、社会的随伴性への発達障害ハイリスクとローリスク乳児の脳反応を比較検討し、社会的相互作用にかかわる神経基盤の定型・非定型発達過程を明らかにすることを目的とする。そのため、発達障害のリスクを持つ乳児と定型発達乳児を対象として、実際の対人相互作用における社会的および非社会的随伴性への脳反応の検討を行なっている。1年目である2021年度は、脳機能および行動データの計測に必要な機材の準備や装置の設定などの実験環境の整備を行った。特に脳機能計測では参加児と実験者が直接対面でのやりとりを行うため、新型コロナウィルス感染症対策を徹底しつつ、参加児にとってより自然な対人相互作用場面を設定することが課題であった。このため、透明マスクの導入を含めた実験手続きの検討を重ねた上で、本実験を開始した。 本年度は、約20名の参加児のデータを集めることができた。本研究はこれまで行ってきた脳機能研究を発展させたものであるため、以前に得られたデータと合わせて、すでに解析にも着手している。脳機能データについて、より適切な解析方法についての検討を進めており、その成果の一部は学会等で報告することができた。具体的には、生後6ヶ月の定型発達乳児において、社会的および非社会的随伴性に共通して右の側頭頭頂接合部(TPJ)領域の活動が増加したことから、社会的相互作用における随伴性の処理に、社会脳の一部であるとされるTPJ領域が関与していることが示された。この結果はこれまでの研究結果とも一致しており、発達初期における随伴性を伴う社会的相互作用の重要性を示唆するものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は対面でのやりとりを伴う脳機能計測のための実験環境を整え、実験を実施した。ただし、新型コロナウィルス感染症の影響もあり、ハイリスク乳児の新規募集が予想以上に難航し、目標とする人数のデータ収集を行うことができなかった。一方、本年度は脳機能データの解析を探索的に行い、本研究の実験パラダイムにより即した解析手法の検討を進めることができた。また、ローリスク乳児のデータは当初の予定通りに収集できており、すでにデータ解析にも着手している。定型発達乳児については、これまで一貫した結果が得られており、社会的相互作用に関与する神経基盤の発達についての知見を着実に積み上げることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続き発達障害ハイリスク児とローリスク児を対象とした実験を実施し、脳機能データおよび行動データの収集を行う。とりわけデータ収集が予定よりも遅れているハイリスク乳児のリクルートおよび実験の実施を優先的に進める予定である。各グループで約20名ずつの有効データを取得した上で最終的な解析を行い、ハイリスク児とローリスク児の随伴性に対する脳活動の比較検討を行う。また、養育者との自由遊び場面における参加児の社会的行動について行動コーディングを実施し、社会的相互作用中の脳活動との関連を検討する。さらに、脳活動だけでなく、脳機能結合についての解析も同時に行い、社会的相互作用を支える脳機能ネットワークの発達について、先行研究の知見を踏まえつつ考察する。本研究成果について、国内学会や国際学会にて発表し、意見収集を行った上で論文執筆を進める。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で、参加予定だった国内外の学会が延期やオンライン開催になり、旅費を必要としなかった。また、購入予定であったデータ計測に使用するパソコンなどの機器の納期が年度内に間に合わなかったため、次年度に発注を後ろ倒しせざるをえなかった。さらに、当初の予定よりもデータ収集が遅れた関係で、実験補助者およびデータ解析補助者の雇用が一部取り止めとなった。 次年度は、前年度に購入予定だった機器に加え、データ解析のためのパソコン、ソフトウェア、データ保存用のハードディスク等の物品を購入する予定である。また、次年度オンサイトで開催予定の国内学会(日本赤ちゃん学会)と国際学会(国際赤ちゃん学会)への参加を予定しており、そのための旅費を必要とする。さらに、実験参加児への謝金、実験補助者とデータ解析補助者への謝金に加え、論文の英文校閲費および学会誌投稿料、データ解析および論文執筆の際に必要となる発達心理学、認知 神経科学、統計解析手法についての参考図書の購入費として使用する予定である。
|