2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K20323
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡邉 天鵬 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (50913282)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | ランダムニュートン法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の対象であるランダムニュートン法について,以下の三点について研究を行いました.一つ目は分岐が起こるパラメータを具体的に決定することです.ニュートン法は乗法的なランダムネスがある分難しいのですが,その前段階として加法的なランダムネスのモデルについて解析を行いました.この研究により,数値計算では証明できない精度で分岐パラメータを決定することに成功しました.また,それを応用してサンプルパスごとの力学系が作るカオス部分(ジュリア集合)の連結性に関する結果を得ました.これらの結果を現在プレプリントとして纏めている最中です. 二つ目は乗法的なノイズの掛かったランダム力学系という観点からの研究です.ニュートン法は次数が高い有理関数であり解析が難しいため,具体的に解析できるモデルとして,ロジスティック写像に由来する乗法的なランダム力学系に関する研究を行いました.これは次数が2の非自明な力学系でありながら,様々な観点から重要な研究対象だと思われます.代表者はリアプノフ指数では測れない位相的な複雑さを図る指標として,不変グラフに関する全変動ノルムを導入しました.それらを用いて,strange non-chaotic attractor (SNA) の存在を示唆する結果を得ました.さらに, 準周期的な外力に影響されるとき,SNAが存在するパラメータを数値的に求めることに成功しました.この数学的な背景を現在解析中です. 三つ目の研究は,ランダムニュートン法の数値実験です.ノイズが大きい場合には確率1で根へ収束することが知られていますが,数値計算によればノイズが小さくても確率1で根へ収束することが確かめられました.また,数理最適化の分野でアニーリングとして知られる方法を数学的に定式化し,今後の研究の基礎を確立しました.数値計算と理論研究の両面から解析中です.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の対象であるランダムニュートン法について,当初の予定通り数値実験と理論の両面から研究を行いました.数値実験に関しては当初の計画以上に進展しており,数値的に得られたいくつかの結果を数学的な予想として定式化しました.予想の証明はこれからの進展次第ですが,ニュートン法より簡単なモデルに対して,それに相当する命題を証明することに成功しています.例えば,ランダムニュートン法と類似の構造を持つランダムロジスティック写像についても,数値実験と理論的な観点からいくつかの興味深い結果を得ました. ランダムロジスティック写像は当初予定した方針とは少しずれますが,様々な観点からそれ自身重要な研究対象だと思われます.代表者はリアプノフ指数では測れない位相的な複雑さを図る指標として,不変グラフに関する全変動ノルムを導入しました.それらを用いて,strange non-chaotic attractor (SNA) の存在を示唆する結果を得ました.さらに, 準周期的な外力に影響されるとき,SNAが存在するパラメータを数値的に求めることに成功しました.この数学的な背景を現在解析中です. 理論的な観点からは,ニュートン法より簡単な,加法的なランダムネスを持つ二次多項式族について深い解析を行いました.この研究により,数値計算では証明できない精度で分岐パラメータを決定することに成功しました.また,それを応用してサンプルパスごとの力学系が作るカオス部分(ジュリア集合)の連結性に関する結果を得ました.これらの結果は当初予定していませんでしたが,それ自身価値がある新しい観点だと思われます.以上の結果を現在プレプリントとして纏めている最中です.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは加法的なランダムネスを持つ二次多項式族について得られた結果をプレプリントとして纏め国際誌に投稿します. その後,ランダムニュートン法やランダムロジスティック写像について数値実験を行います.前者については,当初の予定通りノイズの大きさと収束速度の関係,そしていわゆるアニーリングをした時に収束速度が向上するかの検証などを行います.後者については,SNAが存在するパラメータの探索,確率分布に応じてSNAが消滅・生成するかなどの計算を行い,理論研究への手掛かりを探求します. 数値計算で得られた予想を数学的に定式化し,証明します.ニュートン法について具体的には,確率論におけるマルコフの不等式などを用いて,平均的な収束速度を評価することを試みます.また,ランダムネス全体の空間において,正しい根に収束するサンプルがどれほど存在するかについて,加法的なランダム力学系の手法を援用して研究を進めます.目標は,位相的意味でジェネリックなサンプルパスについて軌道が正しい根に収束することを証明することです.また,加法的な場合からの類推で,偽の吸引的周期軌道が消滅するパラメータを見積もることができるだろうと予想されます.力学系の分岐の観点から,ランダムニュートン法を見直す方策です. ランダムロジスティック写像については,引き続きSNAの(非)存在に関する調査を行います.現在までの数値計算で,SNAが存在すると思われるパラメータがわかっています.数学的に詳細に解析することで,不変グラフの性質を調べる予定です.また,数値計算が示唆するところによると,決定論的なロジスティックの分岐とランダム力学系の分岐が密接に関わっていることが予想されます.決定論的な状況の知識を援用して,ランダムな状況に応用する手法を研究します.
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Causes of Carryover |
コロナウイルス蔓延により,対面で開催される予定であった研究集会が開催されなくなった.とくに2022年3月末に開催される予定であった日本数学会年会は,開催の可否が直前になるまで決定されず,それに伴って経費の使用を保留せざるを得なかった.
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Research Products
(2 results)