2021 Fiscal Year Research-status Report
散逸的なランダム力学系に対する無限不変測度の構成と無限測度混合性への応用
Project/Area Number |
21K20330
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
豊川 永喜 北見工業大学, 工学部, 助教 (30907762)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 絶対連続不変測度 / 物理的測度 / 物理的ノイズ / リャプノフ指数 / 混合性 / マルコフ作用素コサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
散逸的な力学系を確率的に選択することで得られるランダム力学系の,絶対連続なσ-有限不変測度の存在ならびに統計的性質について研究を進めた. Barrientos氏(Fluminense連邦大学),中野氏(東海大学),中村氏(北見工業大学)との国際共同研究では,非特異変換に対する転送作用素の一般化であるマルコフ作用素に対して,有限個の絶対連続なエルゴード的不変確率測度(特に物理的測度)が存在し,さらにほとんど全ての軌道が漸近的に不変測度の台に吸引される,という性質の必要十分条件を,マルコフ作用素の新たな性質を導入する事で特徴付けた. 中野氏,中村氏との共同研究においては以下の2点の結果を得た.1点目は,独立同分布かつ物理的と呼ばれるノイズに従うランダム力学系に対して,リャプノフ指数が常に存在するという結果を示した点.ただしここでリャプノフ指数とは,系の指数的拡大率であり,物理的には「カオス」の指標として用いられる重要な値である.2点目は,必ずしも独立同分布に従わないランダム力学系にも応用可能な,マルコフ作用素コサイクルに対し複数の混合性の定義を導入し,考察した結果である.上記の結果はそれぞれ査読付き論文として,1点目は学術雑誌「Discrete and Continuous Dynamical Systems B」,2点目は学術雑誌「Nonlinearity」に掲載された. 井上氏(愛媛大学)との共同研究では,共通の中立不動点と非常に強い縮小性をもつ区分的に凸な一次元ランダム力学系に対し,絶対連続なσ-有限不変測度の存在を示し,いつ不変測度が無限測度になるか特徴づけを行い,現在論文準備中である. 矢野氏(京都大学),中野氏,中村氏との共同研究では,区間上の2つの散逸的な変換を確率的に選択して与えられるランダム力学系に対し,一般化逆正弦法則を導出し,結果をまとめた論文を投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症のため予定していた出張が大幅に制限され,かつ,研究代表者の所属の変更に伴う事務作業等で研究計画に遅れが生じた.研究の進捗としては,散逸的な変換を確率的に選択して得られるランダム力学系に広く応用可能な,マルコフ作用素の統計的性質について大きな進展を得た.しかし一方で,応用可能なマルコフ作用素は本質的には保存的な系となることも帰結として得られた.以上のことから本研究の進捗状況は,当初の計画では予期していない成果を多く得つつも,やや遅れているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
従来の研究計画通り,散逸的なマルコフ作用素について絶対連続なσ-有限不変測度が存在する十分条件を考察する.現在までの研究により,散逸系な絶対連続不変測度を持つランダム力学系の具体例は複数構成出来たため,それらの具体例をもとにより一般の場合を考察する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の流行のため予定していた出張が大幅に制限され,また研究代表者の所属機関の変更に伴い予定していた物品等の購入に遅れが生じたため. 翌年度分の使用計画は,従来予定していた出張および物品購入等に充てる予定である.
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