2021 Fiscal Year Research-status Report
利得スイッチ半導体レーザーを用いた不可逆変化のシングルショット測定
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21K20346
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 真隆 東京大学, 物性研究所, 助教 (30911838)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 利得スイッチ / 半導体レーザー / シングルショット / 光増幅 / 希土類添加ファイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、駆動エレクトロニクスを工夫することでパルス整形や繰り返し速度に柔軟な選択性を有する利得スイッチ半導体レーザーと、レーザー加工をはじめとする不可逆現象を観測可能なシングルショット分光手法とを組み合わせることで、電気的なトリガー信号を制御することで幅広い時間スケールで発生する不可逆変化ダイナミクスを一つの分光システムで全て観測することが可能な「マルチタイムスケール・シングルショット分光システム」を開発することを目的とした本研究を進めている。本年度はキャリア注入用のパルス電源装置の開発と、希土類添加ファイバー増幅(YDFA)を用いた利得スイッチ半導体レーザーのパルス増幅システムの構築に取り組んだ。結果として、電気パルス励起により発振させた利得スイッチ半導体レーザーからのシード光パルス(繰り返し100 メガヘルツ, ピークパワー74ミリワット, パルス幅15ピコ秒)を、Ybのドープ量が異なる2つのYDFAに通し光増幅させることで、パルス幅・パルス波形を維持したままピークパワー~180ワットまで増幅させることに成功した。また電気パルス励起の繰り返しを100 MHzから数kHzまで減少させると、YDFAによる自然放出光(ASE)が増加し、出力される光パルスの信号ノイズ比(SN比)が悪化することが明らかになった。そのため現在は、音響光学素子(AOM)を用いた光パルスの間引きを併用することで、ASEによるSN比の劣化を抑制しつつ、ピークパワー~数kWまで光パルスを増幅できるよう実験・検証を進めている。またこれらの光源開発と並行して、電動ステージやオシロスコープを組み合わせたシングルショット分光システムの構築も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は分光システムの構築として、希土類添加ファイバー増幅(YDFA)を用いた利得スイッチ半導体レーザーのパルス増幅システムの構築を行い出力パルスのパワーの向上に取り組み、キャリア注入用の電源装置とシングルショット波形の取得用オシロスコープとのトリガー同期システムの構築を行うことを当初の研究計画として想定していた。この研究計画を踏まえ、現在までの進捗状況を鑑みると、開発したキャリア注入用のパルス電源装置を用いた電気パルス励起により発振させた利得スイッチ半導体レーザーからのシード光パルスを、2段階のYDFAで光増幅させることで、パルス幅・パルス波形を維持したままピークパワー~180ワットまで増幅に成功したことは、「マルチタイムスケール・シングルショット分光システム」の開発において進捗があったと考える。以上の見解から、本研究課題の進捗状況として概ね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
希土類添加ファイバー増幅(YDFA)を用いた利得スイッチ半導体レーザーの光パルス増幅において、光パルスの繰り返しを100 メガヘルツから数キロヘルツまで減少させると、YDFAによる自然放出光(ASE)が増加し、出力される光パルスの信号ノイズ比(SN比)が悪化することが明らかになった。光パルスのSN比の劣化は、本研究で開発するシングルショット分光システムにおいてプローブ光が検出できる信号強度を制限してしまう。そのため今後の研究の推進方策として、音響光学素子(AOM)を用いた光パルスの間引きを併用することで、ASEによるSN比の劣化を抑制しつつ、ピークパワー~数キロワットまで光パルスを増幅し、シングルショット分光システムにおいてプローブ光として十分な感度を保持できるよう実験・検証を進める。また今回作成したキャリア注入用の電源装置は、注入できる電気パルスのパルス幅が100ピコ秒に固定されているため、利得スイッチ半導体レーザーから出力される光パルスのパルス幅も固定されている。このキャリア注入用の電源装置を改良し、電気パルスのパルス幅をピコ秒~ナノ秒スケールまで任意に変調可能な機能を付け加えることで、光パルスのパルス幅を変調できるよう変更することも計画している。
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Causes of Carryover |
世界的なコロナ禍による労働力不足により、実験システム構築に必要なアルミ部材や電子部品が年度内に納品・購入できなかったため、翌年度に繰り越す結果となった。供給が安定し次第、購入・調達する計画である。
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