2021 Fiscal Year Research-status Report
水素の量子拡散におけるフォノン・電子系の効果および水素間動的相互作用の解明
Project/Area Number |
21K20349
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小澤 孝拓 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20910144)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 水素 / 拡散 / 量子効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
質量が小さい水素は様々な場面で量子性を示す. しかし低温での水素拡散における量子的な振る舞いは依然として明らかではない. 本研究では非平衡な水素分布を形成し, その準安定状態からの緩和を電気伝導測定によって観測することで低温における水素の拡散頻度を定量的に計測することに成功した. 水素位置の評価には共鳴核反応法(NRA)とイオンチャネリングを組み合わせて独自開発したチャネリングNRAを用いた. Pdナノ薄膜に水素イオン照射することによって形成された準安定状態からの状態緩和を抵抗測定により観測した. チャネリングNRAを用いた構造解析により, 状態緩和が準安定な四面体サイトから最安定な八面体サイトへの水素の移動であることがわかった. 状態緩和の緩和時間より求められた水素の拡散頻度は, 高温領域で熱拡散, 低温領域では温度にほとんど依存しない量子拡散を示した. 低温での拡散頻度の温度依存性を詳細に解析したところ, 拡散頻度が低温ほど大きいことがわかった. これは水素の量子拡散における電子系の非断熱効果に起因すると考えられる. またPd水素化物を急冷することによって形成された準安定状態からの状態緩和を抵抗測定により観測することにも成功した. 緩和時間より求められた拡散頻度の温度依存性を解析することにより, 高温と低温の中間温度領域では振動励起準位を介したトンネルが支配的であることを明らかにした. これまでのPd薄膜の実験を通して水素拡散の計測と水素位置の解析手法が確立できたため、水素の量子拡散におけるポテンシャル形状や電子構造の影響を明らかにすることを目指してPd以外の物質にも実験を展開し始めた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チャネリングNRAを用いて水素の微細な構造を調べるには, これまでSN比が不十分であった. そこで検出感度向上のために検出器の固定フランジを再設計し, またビームアライメントを最適化することで4倍程度の検出感度の向上に成功した. また追い返し電極の導入により試料やビームスリットからの二次電子の影響を排除することで, イオンビームフラックスの測定精度を向上させた. これにより, サイト毎の占有率まで含めた水素の微細構造の解析が可能となり, 水素イオン照射を用いた非平衡な水素分布からの緩和を用いた水素の拡散頻度の電気抵抗測定による計測と組み合わせることで, 拡散径路まで含めた水素拡散の評価ができるようになった. また, Pd以外の物質における水素の拡散頻度を計測するには, 水素イオン照射によって水素が吸蔵されるかをまず知る必要がある. 最新の実験により, Ptナノ薄膜を用いた抵抗測定とNRAの同時測定により, 一般には水素が難溶であるPtにおいても水素イオン照射によって水素が吸蔵し電気抵抗が変化することがわかった. 今後の様々な物質への実験展開に向け, 水素イオン照射を用いた水素の拡散頻度計測の本手法が物質によらず有効であることを示唆した結果である.
|
Strategy for Future Research Activity |
非平衡な水素分布からの緩和を用いた水素の拡散頻度の測定手法の確立, およびチャネリングNRAを用いた構造解析手法の開発は完了し, 拡散径路まで含めた低温における水素拡散が評価できるようになった. 今後はポテンシャル形状や電子構造の影響を明らかにするため, Pd以外の物質にも実験を展開する. 格子構造やデバイ温度,状態密度と軌道角運動量の異なるPt, Cu, Fe, Vなどを予定している. これらの系統的な実験により, 水素の量子拡散におけるフォノンや電子系の影響の包括的な解明を目指す. また水素の濃度依存性について評価することで, 水素間の相互作用についても評価する.
|
Causes of Carryover |
予定していた真空排気系(ターボ分子ポンプ, ロータリーポンプ等)の購入を装置の開発状況と納期等の理由により次年度に回した. また今年度より種々の試料を用いた実験遂行に向け, 様々な物質のエピタキシャルナノ薄膜の成膜を行う. その試料作製のための基板とターゲットを購入する.
|