2021 Fiscal Year Research-status Report
Investigations on formation mechanisms of spontaneous excitons in excitonic insulators
Project/Area Number |
21K20358
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
福谷 圭祐 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 助教 (10706021)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 励起子 / 角度分解光電子分光 / 光電子分光 / 逆光電子分光 / 光電子運動量顕微鏡 / 励起子絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
半導体等においては物質への光照射で「励起子」と呼ばれる不安定な粒子が生成されることが知られているが、この粒子は現代の量子デバイス分野において太陽電池や光検出器などの動作の根本を担う極めて重要な粒子である。 本研究課題の目的は、近年発見された励起子絶縁体と呼ばれる新規物質において発現する安定的な励起子(自発的励起子)の生成メカニズムを解明することである。この研究においては、角度分解光電子分光と呼ばれる実験を主に用い、それら自発的励起子が物質中に存在する状態と存在しない状態の境界付近の環境下において、自発的励起子の性質とそれらの変遷を詳細に評価することで生成メカニズムの謎に解き明かそうとする研究計画である。 このような研究目的・研究計画のもと、研究開始年度である2021年度中に当該物質(性質の異なる数種類の励起子絶縁体物質)を用いた実験を放射光施設において実施し、それぞれの物質において複数の温度環境下での実験データの取得に成功した。これらの実験データの詳細な解析の結果、自発的励起子の生成メカニズム解明につながると考えられる幾つかの重要な実験事実を得るに至った。これらは:(1)自発的励起子の粒子密度が物質の温度が下がるにしたがって増大する現象の観測、(2)励起子絶縁相が消失した種類・性質の物質においても低温においては自発的励起子が発現している状態を持つことが可能であることを示唆する現象の観測、である。(1)は、これまで理論的な予測がなされていたものの、実際の物質においては未だ観測されていない新たな実験事実であり、既存の理論計算と実験事実の整合性を示す重要な結果である。(2)は、励起子絶縁体相という特殊な量子状態を有しない通常の半導体においても、安定的な励起子が自発的に生成しうることを示唆する結果であり、今後の励起子の活用範囲を拡大をも期待できる結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の実施計画における2021年度(初年度)の目標は、放射光施設を用いた高分解能実験を実施とその実験データの詳細な解析とそれに基づく実験的考察を得ることである。 2022年度中に放射光施設での実験課題の申請は採択され、本研究で用いる数種類の実験サンプルの準備と測定環境の整備を入念に行うことで、放射光を用いた実験において当初測定予定であった実験サンプルのうち、およそ半数程度の物質において高分解能測定での実験データの収集に成功しており、得られた大容量のデータは一部を残し概ね解析が終了している。これらのデータ解析結果からは「研究実績の概要」に記述の通り幾つかの重要な実験的考察が得られており、これに基づく今後の物質サンプルの改良や追加作成についても議論材料が概ね揃ったと考える。したがって本研究課題は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては上記の通り、概ね順調に進展しており、高分解能実験により得られた実験データとその解析から得られた考察をもとに2022年度における実験方針の詳細プランを作成中である。 前年度において取得したデータおよび実験考察から、自発的励起子の発現メカニズムの解明において特に有益であろうと考えられる物質組成領域をほぼ特定している。したがって、2022年度においては、当該物質組成の実験サンプル作成を行うとともに室内光源および放射光施設を用いた実験を行う予定である。 これらの新組成サンプルおよび、2021年度に割り振られた放射光実験期間で高分解能測定に至らなかった数種類の実験サンプル(性質の異なる物質群)に関しては、2022年度においての実験課題申請が放射光実験施設により既に採択されており、高分解能実験にむけた準備は進んでいる。これに加え、2022年度においては、低エネルギー逆光電子分光および光電子運動量顕微鏡といった異なる実験手法も用いて多角的な実験を展開し、自発的励起子の発現メカニズムに迫る予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度においては、研究費交付前に既に研究プロジェクトの準備をスタートさせており、それまでに必要であった実験器具などは研究施設などのものを一時的に借用していたため、それら実験器具類の購入および作成費用が次年度使用額として生じた。 しかしながら、借用は一時的なものであると同時に本研究計画・実験に最適化されたものではないため、2022年度においてこれらの次年度使用額分を使用し、今後予定している実験に特化(最適化)した実験器具・物品の購入および作成費に充てる予定である。これに加え、2022年度分として請求している助成金は予定通り、本年の研究計画で行う角度分解光電子分光、低エネルギー逆光電子分光、光電子運動量顕微鏡実験に必要な真空部品や消耗品を購入、必要な研究打ち合わせ等のための旅費、論文投稿費などとして使用する。
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Research Products
(1 results)