2021 Fiscal Year Research-status Report
Exploring light dark matter through long-lived particle searches
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21K20365
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
浅井 健人 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 非常勤教員 (00913774)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 長寿命粒子 / 素粒子現象論 / 標準模型を超える物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
暗黒物質は、様々な宇宙観測によって存在が確かであると考えられていながら、その性質はほとんど解明されていない。暗黒物質が素粒子であるならば、様々な実験事実を説明し確立した模型である素粒子標準模型中には存在しない粒子であり、その拡張が必要となる。現在、理論・実験の両面から暗黒物質の性質の解明、探索が行われており、特に注目され精力的に探索されてきたのが、GeV~TeV程度の質量を持ち、標準模型粒子と弱く相互作用するWeakly Interacting Massive Particle(WIMP)である。しかしながら、探索実験による強い制限により観測された残存量を説明するパラメーター領域はどんどん狭まり、WIMP暗黒物質模型は帰路に立たされている。そこで、他の暗黒物質模型の可能性が探究されており、その可能性の一つがGeV以下の軽い質量を持つ暗黒物質である。宇宙から飛来する軽い暗黒物質はその軽さゆえに核子を反跳させるエネルギーを持たず、直接検出実験の強い制限を回避することが可能である。一方でビームダンプ実験といった長寿命粒子探索実験では高エネルギーの暗黒物質が生成されるため、核子との反跳とその検出も可能となる。 第1年度においては、MUonE実験によって標準模型の抱える謎の一つであるミューオンの異常磁気能率を説明するU(1)_{Lmu-Ltau}ゲージボソンを探索可能であることを明らかにした。このゲージボソンは、注目する質量領域ではニュートリノに崩壊するため探索は難しいが、この研究では、ゲージボソンの寄与によるニュートリノの制動放射によって荷電粒子の運動が変化することを利用して、間接的にゲージボソンへの制限が与えられることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『研究実施計画』にあるILCビームダンプ実験やFASER実験といった長寿命粒子探索実験による軽い暗黒物質の探索感度に関してはまだ論文となっていない。しかし、第1年度終了時点において複数の暗黒物質模型に対して、暗黒物質の生成量の見積りと弾性散乱による検出イベント数の計算が進行中であり、第2年度中に結果を出して論文を出版する目処はついた。 また、第1年度においてはMUonE実験によるU(1)_{Lmu-Ltau}ゲージボソン探索に関する論文を発表したが、このゲージボソンは研究代表者の先行研究にあるとおり、軽い暗黒物質と標準模型粒子を結びつける媒介粒子として非常に魅力的な粒子である。この先行研究では軽い暗黒物質探索は取り扱っていないが、暗黒物質と同様に検出できないニュートリノにゲージボソンが崩壊する点、および荷電粒子の運動から間接的に観測できないゲージボソンを探索する点で、本研究の計画段階では考えていなかった軽い暗黒物質の新たな探索方法につながる可能性を秘めている。現在、その方向での軽い暗黒物質探索についても研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度では、第1年度に引き続き暗黒物質の生成量の見積りと弾性散乱による検出イベント数の計算を行い、長寿命粒子探索実験による軽い暗黒物質の検出感度を評価し、本研究課題の中核をなす「長寿命探索実験は,軽い暗黒物質の探索において感度を持つか?」という問いに対する答えを得ることを目指す。軽い暗黒物質の検出に最適な実験・検出器の提案については、実験の専門家と相談しつつ、現実的な規模・性能の範囲で最適な設定を追求する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行による研究会や学会の中止やオンライン化による旅費の減少、および数値計算用のワークステーションの選定・購入の遅れによる物品費の未消化により、次年度使用額が生じた。 繰越分は、第2年度におけるワークステーションの購入費や共同研究者の在籍する研究機関への滞在用の旅費の補填に使用する予定である。
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