2022 Fiscal Year Annual Research Report
Fundamental study of vacuum decay towards the application to cosmology and particle physics
Project/Area Number |
21K20371
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大下 翔誉 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (50911632)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 真空崩壊 / 宇宙論 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の主な研究実績として、4次元宇宙での加速膨張を負のエネルギーで満ちた5次元時空(AdS_5時空)上での真空泡膨張で理解するための理論研究が挙げられる。量子重力理論の有力候補である超弦理論では、我々が住むような膨張する宇宙を説明することは困難であることが指摘されてきた。そこで、5次元AdS時空での真空泡の生成および膨張を考え、その泡の表面に膨張宇宙と同様の幾何構造をもつ領域が創発するというシナリオが提唱された。しかし、AdS時空は揺らぎに対して不安定性をもつため、わずかな揺らぎを種に、ブラックホールが生成し得ることが指摘されていた。一方、真空崩壊率の計算は、系の対称性が失われると困難となる。本研究では上述のシナリオが現実的な状況でも機能するかを検証するべく、非一様な5次元AdSブラックホール時空での真空泡生成の物理を調べた。特に、ユークリッド経路積分法に基づいて、上のシナリオの有効性を検証した。その結果として、AdS時空の不安定性および、AdS時空中の回転ブラックホールに特有の超放射不安定性(AdSブラックホール時空内の波動が、ブラックホールの回転エネルギーを引き抜き、増幅され続ける現象)がある状況でも、上のシナリオが機能し得ることや、その条件を理論的に示した。この研究成果は学術誌に受理された。 この他に、初年度より進めていたAdS時空でのColeman-de Luccia解で記述される真空泡生成が、起こり得る過程の中で最も高い確率で生じることの証明を試みている。現在は、その証明内容をまとめ、精査している。 初年度は主に真空崩壊理論をユークリッド経路積分を超えて定式化するという基礎的な立場で研究を行った。最終年度では、真空崩壊理論の有用な応用例の一つとして、「超弦理論(素粒子論)と初期宇宙論の調和」がどのように実現され得るかを、より現実的な状況を想定して理論検証した。
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