2021 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive Survey of Elemental Abundances of Nearby M Dwarfs with Planet Search Data
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21K20388
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Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
石川 裕之 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, アストロバイオロジーセンター, 特任研究員 (00910902)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 光赤外線天文学 / 高分散分光 / 化学組成 / M型矮星 / 系外惑星 |
Outline of Annual Research Achievements |
今後M型矮星周りに見つかる惑星の特徴づけのための土台として、本研究は、M型矮星の元素組成の決定法を従来より低温のターゲットに拡張し、すばる望遠鏡を用いた惑星探査プロジェクト(IRD-SSP)のターゲット天体に適用することを目的としている。この達成のために当該年度は、(1) 我々が早期・中期M型矮星の解析に用いてきた従来の解析法をより低温の晩期M型矮星(有効温度が約3000K以下の恒星)に拡張し、その妥当性を連星系の観測データを用いて検証すること、(2) 分子吸収線を含めた合成スペクトルを効率的に観測データと比較するための計算コードの拡張開発、の2点を並行して実施した。また、(1)と(2)に先立って、申請期間から準備を行っていた査読論文の出版に至った。これは本研究で扱う組成解析法による近傍M型矮星の組成解析研究の概念実証にあたる研究である。 まず(1)については、太陽型星と連星をなす晩期M型矮星の近赤外高分散データを用いた組成解析を行った。それに際して、元素組成のみならず有効温度も同時に同じデータから推定する方法の検討・開発を行った。結果の元素組成は誤差の範囲で主星の元素組成と一致することが確認された。 一方で(2)については褐色矮星および惑星質量天体を対象に開発されたモデルスペクトル計算コードexojax(Kawahara et al. 2021)を拡張することでM型矮星への適用を目指している。原子やイオンの吸収線の考慮など高温側への拡張において重要な部分は当該年度に実装が完了した。実際に有名なM型矮星であるバーナード星の近赤外高分散スペクトルに対するexojaxを用いたモデルフィットを行い、波長に依るがパラメータ推定が可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの成果としては、本研究で扱う組成解析法の概念実証となる査読論文 (Ishikawa et al. 2022, AJ, 163, 72) が出版されたことが第一に挙げられる。想定よりも共同研究者および査読者から建設的な意見が多く集まったため、綿密に追加の解析等を行い、論文のみならず今後の研究にも役に立つ解析手法の改善にも至った。 第二に、従来より低温の天体でも同様の組成解析を可能にするべく、既にすばる望遠鏡のIRDとスペインのCalar Alto天文台の分光装置CARMENESで取得した、太陽型星と連星をなす晩期M型矮星のデータを解析した。従来の方法では個別の元素組成を測定する際には入力値として既存のカタログから取得した有効温度を採用していたが、過去に温度推定のない天体もターゲットに含まれていたため、有効温度も元素組成と同時に推定するパイプラインを開発した。組成解析の結果は、ターゲットのM型矮星の元素組成が主星のものと誤差の範囲で一致することを示し、これまで晩期M型矮星の近赤外高分散スペクトルから個々の元素組成が得られることが示せた。これらの結果は日本天文学会の春季年会等で報告し、現在パイプラインの調整と論文化の準備を行っている。 さらに、褐色矮星および惑星質量天体を対象に開発された自動微分可能なモデルスペクトル計算およびフィッティングのための計算コードexojax(Kawahara et al. 2021)の拡張開発を行っている。原子やイオンの吸収線の考慮など高温側への拡張において重要な部分は当該年度に実装が完了し、実際に有名なM型矮星であるバーナード星の近赤外高分散スペクトルが再現できることを確認した。これはexojaxを用いたモデルフィットを行い、波長に依るがパラメータ推定が可能であることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず晩期M型矮星の組成解析法の検証についての研究をまとめきることが肝要である。ただし現在の解析法の改善点として、連続光レベルの決定については目視による調整が必要となっていることが挙げられる。特に晩期M型矮星では、より高温のM型矮星に比べて分子吸収線の密度が高く連続光レベルを覆うため、連続光レベルの不定性が大きい。現在、スペクトルを与えることで自動的に連続光レベルを決定することで人為的な不定性を減らす方法を検討している。次年度中にこれを完成させ、それを実装した上で再度連星内のM型矮星の組成解析を行って、査読論文にまとめる。 一方で、モデルフィットによるパラメータ推定のためのコード開発においては、バーナード星の近赤外高分散スペクトルの一部が我々のモデルスペクトルで再現できることが確認できた一方で、研究計画当初は想定しなかった問題点も明らかになってきた。特に、M型矮星では褐色矮星等のより低温の天体に比べると吸収断面積に寄与している吸収線の数が多く、計算メモリが非現実的に大きくなってしまう点がある。現在これに対処するべく、連続光スペクトルを形成するような強度は弱いが数が多い吸収線を まとめて扱うためのモジュールを開発中であり、次年度の初期には完成を見込んでいる。次年度中にこれを用いてバーナード星の広い波長においてモデルフィットを実施することで、大気モデルに依存せず純粋にデータから逆推定されたM型星パラメータを提供する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の感染拡大の影響で当初当該年度に予定されていた国際会議「PP VII」が次年度に延期となったため、この分を翌年度分に同目的のために使用する。また、当該年度に参加した研究集会も同様の理由で全てリモート参加となったため、交通費や宿泊費等の支出が予定よりも少なかった。現地参加でこそ発展する議論や共同研究があることも実感したため、翌年度には当該繰越分を利用し、社会の情勢に合わせた範囲で現地開催の国内研究集会にも参加する予定のため、それに係る旅費に未使用分を充てる。 研究開始当初から2022年度分として請求していた分は予定通り、Dropbox Plusのプラン料金・日本天文学会の年会費と年会参加費、Cool Stars21の参加費、査読論文投稿料およびその英文校正とオープンアクセス掲載料、に使用する。
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Research Products
(4 results)