2021 Fiscal Year Research-status Report
せん断型疲労き裂進展下限界に基づく析出強化型Ni基超合金の疲労強度評価手法の確立
Project/Area Number |
21K20407
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 佑弥 九州大学, 工学研究院, 学術研究員 (50904588)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | Alloy718 / 破壊力学 / せん断型疲労き裂 / 開口型疲労き裂 / き裂進展下限界値 / 疲労限度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,力学的根拠に基づくAlloy718の疲労強度の定量評価手法の確立を目的としている.以下に今年度の主要な成果を示す. 長いき裂の進展下限界値の測定技術の確立:一般に,き裂進展下限界値は応力比Rに依存する.き裂停留様式を予測する際には,同じ応力比のもとで取得したせん断型き裂の進展下限界値ΔKτthと開口型き裂の進展下限界値ΔKIthを比較することが適切である.従来のCT試験片を用いた疲労き裂進展試験では,R = -1での長いき裂の進展下限界値を明らかにすることは難しい.そこで,特殊な形状の試験片を設計し,R = -1での疲労き裂進展試験方法を確立した.この方法でAlloy718における長いき裂のΔKIthを測定したところ,欠陥寸法が約1000μm以下の場合,ΔKτth < ΔKIthとなることが示唆された. き裂先端近傍におけるき裂進展駆動力の解析:き裂先端近傍では,き裂の開口型またはせん断型進展を促進するき裂進展駆動力が同時に作用する.この両者の大小関係はき裂の存在形態やき裂に負荷される応力の状態により変化する.今年度は,荷重軸に対し45度傾斜したき裂に軸方向応力のみが負荷される場合の駆動力を解析した.その結果,上記の状況では,き裂先端近傍において,せん断型き裂進展に対する駆動力に比較し,開口型き裂進展に対する駆動力は1.7倍程度となることが明らかとなった. き裂停留様式の決定メカニズムの解明:上記の疲労き裂進展試験と解析に加え,今年度は平滑材のねじり疲労試験および人工微小欠陥材の引張圧縮疲労試験を実施した.一連の研究成果から,Alloy718の疲労限度におけるき裂の停留様式は,き裂進展下限界値の大小関係に加え,き裂進展駆動力の大小関係にも影響を受けることが明らかとなった. 上記の研究成果の一部を1件の国内学会で報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の実験方法では困難であった,R = -1における長いき裂の進展下限界値の測定方法を確立したことにより,本研究課題の核心である開口型き裂の進展下限界値とせん断型き裂の進展下限界値の大小関係を明らかにすることができた.また,き裂進展下限界値の大小関係と弾性力学に基づいた解析結果の両者を踏まえることで,人工微小欠陥材の疲労試験結果を破壊力学に基づいて説明することが可能となった.目的達成に向けた実験・解析は順調に進行している.研究成果の学術論文での発表は達成できていないが,現時点でこれ以外は当初の計画通りに進展しているため,「おおむね順調に進展している」の評価としたい.
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者らが提案したAlloy718におけるΔKτthの予測式の微小欠陥材への適用を試みるとともに,Alloy718の疲労限度を定量的に評価する手法の確立を目指す.今年度の研究成果を踏まえると,同一形状の欠陥であっても,しきい値となる寸法を境にき裂の停留様式がせん断型から開口型へと変化すると考えられる.この仮説を検証するために,寸法の異なる人工微小欠陥を導入した試験片で引張圧縮疲労試験を行う.また,停留様式の遷移欠陥寸法は負荷方式の影響も受けると予想している.そこで,同様の実験を繰返しせん断応力負荷のもとで実施する.得られた実験結果をき裂先端近傍におけるき裂進展駆動力の解析結果に基づいて整理し,き裂停留様式の決定メカニズムを力学的に明らかにする. 上記の実験では,放電加工やFIB加工によりスリット状の欠陥を導入するが,実際の機械・構造物への適用範囲は限られる.円孔などの種々の欠陥から発生したき裂の進展駆動力を有限要素法により解析し,本研究で提案する疲労限度の評価手法のより一般的な問題への適用を試みる.
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