2021 Fiscal Year Research-status Report
錯体種の設計と反応場の制御による高結晶鉛フリーペロブスカイトの水中合成法の創出
Project/Area Number |
21K20475
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
横山 幸司 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (00911158)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 錯体構造 / アスコルビン酸 / 還元剤 / キレート剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
スズ前駆錯体の水和と酸化は、得られるスズ系ペロブスカイト光電変換材料の品質や耐久性を低下させる。このため、これまでは高価な無水・真空設備や有害な非水系有機溶媒が合成系に用いられてきた。本研究の目的は、高品質・高耐久スズ系ペロブスカイト材料を大気中・水中で合成する「究極のグリーンプロセス」を創出することにある。令和3年度は、研究実施計画に基づき、「計算・分析による水中錯体種の同定・最適設計」と「水溶液反応場の精密制御による錯体種の酸化抑制」に取り組んだ。水溶液反応場に還元剤としてアスコルビン酸(AA)を添加すると、水溶液中のスズ錯体は大気中でも数日間その価数を維持し、酸化が抑制できることを明らかにした。加えて、AAを添加した場合、スズ原料が0.5 mol/Lもの高濃度で水に溶解することを新たに見出した。通常、スズ原料の水への溶解度は極めて低いことから、AAは還元剤としてのみならずキレート剤としても作用したと推察される。スズ-ハロゲン化物無水錯体は、高品質・高耐久スズ系ペロブスカイト材料を合成する上で最適な錯体構造とされるが、この錯体構造は水溶液中でのハロゲン化物イオン濃度がある閾値以上に達した場合にのみ安定に形成されることが紫外可視分光分析から示唆された。さらに、AA添加系では、不安定なヨウ化水素酸に代わり、安定なヨウ化リチウムやヨウ化ナトリウムがヨウ化物イオン源になり得ることを見出し、大気中でも数日間安定なスズ-ヨウ化物錯体水溶液を調製できた。この前駆水溶液からメチルアンモニウムヨウ化スズペロブスカイト(MASnI3)を合成したところ、既存の還元剤である次亜リン酸を添加した前駆水溶液から得たMASnI3よりも大気中での劣化が抑えられた。この結果は、前駆錯体水溶液の最適化により、大気中・水中でも高品質・高耐久ペロブスカイト材料が合成できる可能性を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画通り、水中でのスズ-ハロゲン化物前駆錯体の最適構造設計指針を明らかにしつつ、酸化を抑制する手法をほぼ確立することができた。これに加え、当初の研究実施計画では次年度に予定していた、ペロブスカイト材料の水中合成と構造・光学特性・耐久性評価をある程度進めることができたため、研究の一部は当初の計画以上に進展している。しかし、水溶液試料のpHやハロゲン化物イオン濃度の制約により、当初予定していた飛行時間型質量分析を用いた解析の一部にやや遅れが見られる。 研究実施計画全体を総合すると、おおむね順調に進行しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、以下の2点に重点的に取り組む予定である。 ・アスコルビン酸(AA)添加系におけるスズ原料の水への溶解度の向上メカニズムの解明 AAがキレート剤として働き、スズ-AA錯体として溶解したとの仮説を検証するため、スズ-AA錯体に焦点を当てた分光分析・質量分析を展開する。また、ハロゲン化物イオン源の高濃度添加によってAAがハロゲン化物イオンと配位子置換し得るかについても実験的検証を行う。 ・得られたペロブスカイト材料の耐久性向上メカニズムの解明 ペロブスカイト材料の品質と耐久性は、(1)結晶性と(2)表面状態によって決定されていると考えられる。(1)に関しては、蛍光寿命測定による欠陥量の評価・比較を進める。(2)に関しては、X線光電子分光(XPS)による材料表面の終端構造、表面吸着分子の有無などについて評価・比較を進める。
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Causes of Carryover |
令和3年度は当初、国内学会と国際学会(オンライン)に各1回参加を予定して「旅費」と「その他」に予算を計上していたが、大学の新型コロナウイルス感染症対策における行動指針順守の一環で参加を見送ったため、および参加を予定していた学会の中止のため、いずれも予定していた額を使用できなかった。次年度では、当初の計画通りの国際学会参加に加え、新たに国内学会における成果発表を計画しているため、次年度使用額の一部を活用する。また、論文投稿用英文校正費が当初の想定以上に高額となることが見込まれるため、一部はそちらにも使用する予定である。
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