2021 Fiscal Year Research-status Report
アルミニウム電析において忌避されてきた「水」を有効利用する合金電析プロセスの提案
Project/Area Number |
21K20493
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
東野 昭太 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 助教 (70908095)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | アルミニウム合金 / 電気めっき / 電析 / イオン液体 / 溶解度 / 分光法 / X線吸収端微細構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルミニウムおよびその合金の電気めっき(電析)は、材料に高い耐食性を付与するための重要な技術として注目されている。研究代表者は最近、非水系溶媒からなるアルミニウム電析浴に対し、タングステンなどの金属からなる水和物塩が高濃度まで溶解し、さらにその系において水分の還元反応が抑制されるという特異な現象を発見した。本研究では、水和物塩の高濃度溶解と水分還元の抑制という新奇な現象のメカニズムを明らかにし、従来電析することが困難であったアルミニウム合金の新たな電析法を提案することを目的としている。 令和3年度は水分率の異なるタングステン水和物を合成し、これを代表的なアルミニウム電析浴である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド系イオン液体に溶解させた際の溶存状態を、紫外可視分光、ラマン分光、赤外分光、X線吸収端微細構造分光により解析した。試薬やイオン液体を取り扱うためのグローブボックスを導入し、予定通りの実験を実施することが出来た。 令和3年度に得られた重要な成果として、水和物と無水物ではイオン液体中の溶存状態が異なることを、実験的に明らかに出来たことが挙げられる。具体的には、水和物の場合は水分子由来の酸素-タングステン間の配位結合が形成される。この構造の安定性が、水和物の高い溶解度に寄与していると考察している。 また電析試料の電流効率を解析した結果、イオン液体中に水分を加えた場合でも電流効率はほとんど低下せず、ほぼ100%となることが分かった。これは水分の大部分がイオン液体中のアルミニウムイオンと反応して塩化水素となり浴から揮発するためだと考えられる。以上の知見を国際査読誌Journal of the Electroanalytical Chemistryに発表した。また国内・国際会議での発表を数件行い、受賞にも至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はグローブボックスを導入し、それを用いて実験を予定通り実施することが出来た。また試薬の合成に関しては、ドラフト等の化学実験設備が研究室に備わっていたため、想定外の作業効率で進めることが出来た。分光法を用いた実験についても、学内の共有設備である紫外可視分光や赤外分光装置を問題なく利用出来、実験は順調に進展した。また電析物の分析結果からも、電流効率に関する重要な知見が得られている。本年度に得られた結果を論文にまとめることが既に出来ており、計画は順調に進展している。その一方で、研究代表者の所属研究室は、研究室主催者である教授および研究代表者の両名ともが令和3年度から着任するという文字通りスタートアップの最中にあり、想定していたよりも装置の移転や設置などの業務が多かった。そのため年度の前半において、本研究課題を予定通り遂行できない部分があった。特に、本年度予定していた分子軌道計算については満足に行うことが出来なかったため、次年度の課題と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度前半の研究目的は、水和物を加えた電析浴において水の還元が抑制されるメカニズムを、より詳細な電気化学測定により明らかにすることである。還元電位および拡散係数の電気化学測定を行い、浴の微量成分変化や電流効率から既に求められている水の還元反応量との相関を明らかにする。この実験結果の妥当性を、理論計算で求めた分光スペクトル、溶媒和エネルギー、さらに還元安定性と相関のある最低非占有軌道エネルギーなどの物性値を比較することにより検証する。 さらに年度の後半は、タングステンとは異なる構造の水和物を形成する重金属であるモリブデンやクロムにも着目して実験を行い、構造の違いが溶解および還元の挙動に及ぼす影響を体系的にまとめる。 具体的な研究の推進方策として、まず電気化学アナライザを新たに購入し、前年度に導入したグローブボックスと組み合わせた測定システムを構築する。アナライザも選定済みであり、グローブボックス内で使用する電解セルは既に用意してあるため、アナライザが納品され次第実験を開始出来る。また量子化学計算を行うためのワークステーションを購入する。ソフトウェアとしてはGaussianを用意しており、計算をすぐに実行できる体制にある。
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Research Products
(4 results)