2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞外マトリクス内のがん細胞の空間的位置や密度が細胞挙動や機能に与える影響の解明
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21K20512
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
小林 真子 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 特任研究員 (70908912)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 3Dバイオプリンティング / 脱細胞化生体組織 / がん / 細胞外マトリクス |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞は周囲の様々な正常細胞や細胞外マトリクス成分と相互に影響しあうことで、増殖・転移のしやすい治療抵抗性ながん微小環境を構成する。近年の3Dがんモデル開発研究により、がん細胞と組み合わせる細胞種や細胞外マトリクスとの複雑な相互作用が、生体様がん微小環境の組成・機能発現に重要であることがわかってきた。本研究課題では、がん細胞にとって生体組織により近い細胞外マトリクス環境を提供できれば、生体様がん微小環境を模倣できるのではないかとの発想のもと、その実現に向けた条件探索のために、生体組織由来の細胞外マトリクスである脱細胞化組織由来ゲル(dECMゲル)を材料として3D構造体を作製し、3Dバイオプリンターでその内部にがん細胞を様々な配置・密度条件で播種し、細胞挙動や機能発現を評価することを目的としている。 本年度は、種々のdECMゲルでのがん細胞(HeLa)の培養条件検討を進めると同時に、米国より3Dバイオプリンターを購入し、dECMゲルでの3D構造体の作製を検討した。種々の条件で脱細胞化処理した食用ブタの小腸粘膜下組織、膀胱粘膜組織を用いてdECMゲルを作製し、ゲル上でHeLa細胞を培養したところ、良好な接着、増殖が観察され、現在、包埋培養条件の検討を進めている。また、3Dバイオプリンターは、Carnegie Mellon大学の研究チームが開発したバイオインクや柔らかいゲル材料を 3Dプリンティング可能なFRESH 3D Printing (Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels)に特化したものを購入しており、現在、コラーゲンやゼラチン等を材料としたサポートバス内で、dECMゲルでの3D構造体の作製検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、細胞外マトリクス内のがん細胞の空間的位置や密度の観点から、がん微小環境の形成機序を明らかにすることを目的として、3Dバイオプリンターを用いて細胞外マトリクス中に様々な距離・密度条件でがん細胞を播種し、がん細胞の挙動に関する要素を探索する。 当該年度は、①種々の脱細胞化組織由来dECMゲルの作製とがん細胞の培養、②フィラメント用プリンターからバイオインクの印刷が可能なプリンターへの改造、③dECMバイオインクによる3D構造体の作製を計画した。①については、種々の脱細胞化組織由来ゲル上でHeLa細胞を播種し、所定時間培養後、Calcein染色により細胞の接着性、増殖性を評価したところ、良好な初期接着性、増殖性を示した。現在、包埋培養におけるHeLa細胞の生存性、増殖性の評価を進めている。②に関しては、当初は申請者がCarnegie Mellon大学のワークショップで習得したフィラメント用の3Dプリンターをバイオプリンターに改造する方向で準備を進めていたが、国内では手に入らないパーツやシステムの改造に難航していたところ、交付内定直後に同ワークショップを主催した研究チーム発のベンチャー企業で3Dバイオプリンターが発売されたため、これを購入することとなった。日本への輸入例がなく、輸入手続き等に時間を有し、今年になって入手できたため、③のdECMゲルをバイオインクとした3D構造体の作製検討は現在進行中である。dECMゲル単体では力学特性が低いことから、他の細胞外マトリクス成分を組み合わせることでバイオインクの強度を高める等の検討を進めており、これまでに複数の印刷条件を見出している。また、バイオインクであるdECMゲル中に含まれる成分とその特性や細胞への効果についての成果報告を国内・国際学会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の推進方策として、①dECMゲルでのがん細胞の包埋培養条件の決定、②dECMゲルを主成分とした3D構造体内部でのがん細胞のパターニング印刷、③3D構造体内部のがん細胞の生存、増殖、浸潤転移能の評価を実施する。 ①については、昨年度に引き続き、種々のdECMゲルを用いてHeLa細胞を包埋培養し、生存や増殖性をCalceinおよびPropidium Iodide(PI)染色により評価することで、3D印刷後の最適培養条件を決定する。②では、これまでに条件検討を進めてきた3D構造体内部に、がん細胞を包埋したバイオインクをパターニング印刷することで、がん細胞を様々な距離・密度で配置する。パターニング印刷に最適な3D構造体やバイオインク作製の条件決定と、がん細胞の包埋密度や配置制御の至適化を検討する。③では、②で得られたがん細胞をパターニング印刷した構造体を所定時間培養し、内部に配置したがん細胞の生存や増殖をCalceinおよびPI染色により評価する。また、細胞形態や浸潤転移能をVimentin, β-tubulin, Phalloidin, MMP2の免疫蛍光染色により評価することで、がん細胞の空間的位置や密度が細胞挙動や機能発現に与える影響を解明する。
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Causes of Carryover |
当初の実験計画よりも効率よく実験が進められており、より少ない実験材料で実施できていることと、情報収集や成果報告のために参加した国内・国際学会のほとんどがオンラインであったことで次年度使用額が生じた。当初の計画よりもやや遅れは生じたが、3Dバイオプリンターを入手できたため、次年度は印刷や印刷後の実験に関わる消耗品の購入を計画しており、研究成果をまとめて学会発表や論文投稿を予定している。
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Research Products
(4 results)