2021 Fiscal Year Research-status Report
量子状態選別および空間配向制御を利用した異核二原子分子の回転制御
Project/Area Number |
21K20529
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 雅明 東京工業大学, 理学院, 助教 (90909384)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 状態選別 / 配向制御 / 分子回転制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は量子力学的に記述される分子回転運動をレーザー光の照射により制御し、実験的に観測することである。特に偏向型の量子状態選別器と組み合わせて分子の初期状態を選別、さらに配向させた状態から出発する点が先行研究との違いであり、一酸化窒素のような異核二原子分子の分子回転をより明瞭に可視化することを目指す。 本年度は実験の準備に相当する基礎的な工程を主に実行した。まずターボ分子ポンプのオーバーホールを含む測定を行うための真空系の整備を行い、実験に必要な真空度を達成した。真空度の悪化は直接、状態選別器の選別能の悪化に繋がるので非常に重要な点である。オーバーホール以前と比べて真空度はよくなっており、10^-8 Torr を達成している。以前はアンモニア分子でテストした記録があったので同じ分子を使い、状態選別器が十全に動作することを確認した。次に観測の肝となる極短パルスレーザーを真空槽に導くためのレーザー光路の設計と実装を行った。レーザー発振装置は地理的に真空槽から離れているため、補助光学台などを作成してレーザー光を通した。現在は偏光の調整などに課題を残しているが、簡易的には真空槽に到達しており、前述のとおりテストに使ったアンモニアのクーロン爆発フラグメントの観測に成功している。現在の観測は一次元的な飛行時間測定にとどまっているので、これを二次元画像観測に置き換える必要がある。翌年度の時間・予算の多くはこのためにつかい、本丸となる回転制御およびその観測の実験を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は必要な物資の調達と並行して、レーザー光路の設計および実装を進めた。必要な物資として一酸化窒素ガスや分子配向のための追加電極、レーザー光路を作るための光学素子が挙げられるが、これらの調達は順調に進んでいる。一酸化窒素は希釈済みのガスを真空槽付近に設置した。追加電極は保持のための部品の設計を終え、絶縁性が高く真空中におけるアウトガスの少ないマシナブルセラミックスの一種、マコールで製作した。電極は実験の進捗をみつつこれから真空槽内への設置をすすめる予定である。クーロン爆発を利用した分子解離フラグメントイオンの観測は本実験の肝とも言えるが、そのためのレーザー光路の準備は初年度の主な進捗と言える。必要な低分散ミラーやミラーマウント、レンズや波長板など種々の光学素子を選定し調達をすすめた。真空槽まわりの空間は非常に限られており、当初はレーザー光路の設計は難航することが予想されたが、狭い空間に光学素子を並べる事の出来るケージシステムの導入や、補助光学台の設置によって大きく前進した。現在は簡易的ながら光を真空槽に導入することができるまでになっており、テストとしてアンモニア分子の解離フラグメントの飛行時間スペクトルの測定を終えた。現状ではまだレーザーの出力調整や偏光の調整ができない状況なので、これらの点は改善が必要である。しかし、これらの工程は既存の光路に必要な素子を設置していくだけなので目途は十分立っている。 本年度はレーザータイムは限られていたが、物品の選定・調達や真空ポンプのオーバーホールなど実験のために必要な作業はかなり順調に進んでいる。基礎となる準備がかなり進捗したので、次年度は測定のための時間をより多く割けると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況の項にて述べた通り、真空槽への電極導入とレーザー光路の改善は残された課題である。電極導入は真空を破る必要があるためにタイミングを見計らう必要があるが、技術的に難しい点はない。可能であれば、現在の10 Hz でのパルス測定からより高速な繰り返しでの測定が可能になるよう、パルスノズルの交換や真空ポンプの増築なども視野にいれて将来的なより発展的プロジェクトに向けたシステムの改良を積極的に行いたい。レーザー光路の改善もまた必要な素子を入手次第進めることができる。現在必要な偏光フィルターや波長板などの光学素子の選定を進めている。場合によってはこれらの設置スペースを新たに確保するために光学防振台の整理を行う必要があり、できるだけ早期に実現したい。さらに、残された大きな課題としては画像観測システムの構築がある。マイクロチャンネルプレート(MCP)と蛍光スクリーンを組み合わせた二次元検出系を実用できるレベルで組み立てなければならない。MCPと蛍光スクリーンはすでに研究室にあるものを利用できるが、スクリーン上の光点を観測・記録するためのデジタルカメラは翌年度予算から購入する予定である。また、これらを制御するための測定自動化ソフトウェアは実験にあわせて実装する予定である。 同時に進行している研究プロジェクトも複数あるためにレーザータイムの確保は依然、課題ではある。これに関しては一酸化窒素の状態選別や配向分布を評価するためのシミュレーションを進めるなど時間を有効に利用したい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額は生じたが2,888円と少額であり、事実上予定通りに使用できているといってよい。これを0とすることに心血を注いで必要のない発注をするよりも、次年度に使用する方が健全と判断したために残した。次年度分の予算は主に画像観測のためのデジタルカメラおよび電子機器の購入に充てる予定である。
|