2021 Fiscal Year Research-status Report
A semi-empirical modeling of electronic states of multi-transition metal complex for quantum computing
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21K20536
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉田 悠一郎 大阪大学, 量子情報・量子生命研究センター, 特任研究員(常勤) (80911601)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 量子コンピューティング / 電子状態理論 / 遷移金属錯体 / 量子・古典ハイブリッドアルゴリズム / VQE / 溶媒効果 / 半経験的理論 / 有効ハミルトニアン |
Outline of Annual Research Achievements |
多核遷移金属錯体の電子状態は、主としてd軌道が作り出す、複数の電子配置の重ね合わせによって理解することができる。配位子場や溶媒などの周囲環境下における、そのような複雑な電子状態の見通しの良いコンパクトな記述を達成することが重要である。量子ビットの重ね合わせやエンタングルメントを利用した計算を行う量子コンピュータの重要な応用先として、多核遷移金属錯体のような分子の複雑な電子状態の計算がある。本研究は、急速に開発が進む量子コンピュータの将来的な活用を意識し、複数の遷移金属中心を持つ錯体分子の有効モデルの開発を企図したものである。 新たに量子計算の研究活動をスタートさせるにあたって、初年度は、まずは研究に必要な理論の理解やアルゴリズムの習得・実装を進めていった。具体的には、量子・古典ハイブリッドアルゴリズムとして量子コンピュータの活用が期待される変分量子固有値ソルバー(VQE)のシミュレート研究、自由フェルミオンダイナミクスの理論の詳細な理解や実装、物性物理学分野の基礎事項の会得・実装などを進めた。 特にVQEによる量子計算のシミュレート研究では、溶媒分子が作り出す周囲環境の影響を取り込んだ分子の電子状態の量子計算に取り組んだ。溶媒和の分子理論である3D-RISM-SCF理論と変分量子固有値ソルバーを組み合わせた計算を行い、水分子などの小分子の溶媒環境下での電子状態を、量子計算のシミュレーションを通して特徴づけることができた。溶媒和を含む量子化学計算の量子計算実行コストに関する見積もりにおいても一定の成果を上げることができた。 遷移金属錯体の電子ハミルトニアンに対する半経験的なアプローチに関しては、具体的な遷移金属錯体の計算段階には入れていないが、量子化学計算パッケージPySCFを用いての検討を現在行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
VQEによる溶媒環境下における分子の電子状態計算の結果は、現在論文としてまとめている最中である。学術誌への投稿準備を進めている段階であり、順調であると言える。周囲環境の影響を取り込んだ、分子の電子状態の量子計算シミュレーションに関する知見は、遷移金属錯体への取り組みに大いに役に立つものである。 計画立案時点において応用計算の候補として検討していたプラチナ錯体に関しては、溶媒和まで含めた電子基底状態、励起状態の非常に精緻なモデリングが必要であることが、先行研究の調査や予備計算などを通してわかってきた。必要な計算精度を確保できるかについての検討や、もしくは代替となる分子系の検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、複数の遷移金属を有する金属錯体の量子計算のための有効モデルの開発を進める。配位子などの周囲環境効果も含めた半経験的なモデル開発の次は、初年度のVQE計算の知見を活かし、量子コンピュータの高速シミュレータを活用しての数値検証に進む予定である。錯体の電子基底状態および励起状態のエネルギー曲面をバランスよく記述できることを目指す。また、近年開発が進められている量子コンピュータはノイズのある量子回路の計算を行うものである。ノイズの影響を受け、計算結果がどのように変化してしまうのかについても、高速シミュレータを活用して検討する意味があると考えている。
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