2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K20538
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
仁王頭 明伸 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60910320)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 自己組織化単分子膜 / 電荷移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟X線による内殻電子励起を用いることで、分子の特定の原子に局所的に電荷を発生させることができる。基板表面に吸着した分子の場合、生じた電荷は分子鎖を介して基板へと移動するが、この電荷移動は放出されるオージェ電子のエネルギー変化として観測できる(core-hole clock法)。本研究ではこのような内殻励起による反応ダイナミクスを用いることで、分子素子の導電性を非接触に計測可能であることを実証することを目的とする。 本研究ではまず分子素子をモデル化した系として2つのベンゼン環からなるビフェニル系に着目した。ビフェニル系では、2つのフェニル環の間のねじれ角に依存して分子の導電性が大きく変化するため、本研究で目指す分子の非接触導電性評価を実証するのに適した系であると考えられる。 令和3年度はcore-hole clock計測の前段階として、分子が基板上に吸着した自己組織化単分子膜(SAM)試料の作製・評価を行った。置換基を導入することによりねじれ角が変化した2種類のビフェニルチオール分子試薬(SH-C6H4-C6H4-COOCH3およびSH-C6H4-C6H2Me2-COOCH3)を用いて、金基板上にSAM試料の作製を試みた。次に作製したSAM試料の評価を、HiSOR BL13を利用した軟X線吸収分光計測により行った。得られた吸収スペクトルでは、いずれの分子SAM試料においても明瞭な偏光依存性が観測され、基板上に高い配向性を持つ単分子膜が形成されたことが示唆された。以上のようにSAM試料の作製・評価法を確立し、分子の非接触導電性評価を行うための準備が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である令和3年度は予定していた有機分子SAM試料の作製・評価に成功した。先行研究で用いられてきたSAM試料作製法が、本研究で用いるねじれ角の異なるビフェニル系にも適応可能であるという知見が得られたことは、本研究課題を進める上で最初の重要な成果であると考える。 また得られたビフェニル分子SAM試料の吸収スペクトルから、core-hole clock計測の測定条件について具体的な検討を進めることができた。この検討内容を基に、今後早期のcore-hole clock計測の実施が可能な状況である。 以上のように、本研究の進捗状況は順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和4年度は、ビフェニル分子SAM試料について軟X線電子分光計測を実施し、分子の導電性評価を試みる。なお令和3年度に2種類のビフェニル分子試料について試料作製が問題なく行えることが確認できたため、今後は試料の数を増やして同様の試料作製を行う。さらに分子素子を模した他の分子系についても同様の手法により試料作製が可能かどうか検討する。 その後、作製したSAM試料のオージェ電子計測を、HiSOR BL13を利用して行う。実験で得られる共鳴オージェ電子スペクトルから、エネルギーの異なるオージェ電子の収量比を解析し、励起サイトである分子末端の官能基から基板への電子移動速度を決定する。特にねじれ角の異なるビフェニルSAM試料については、電子移動速度がねじれ角に依存してどのように変化するか明らかにする。この結果から、軟X線電子分光による分子の導電性評価法の有効性を検証する。
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Causes of Carryover |
出張旅費を一部出張先の研究機関より支給してもらったため、本年度の使用額が少なくなった。次年度使用額は合成試薬の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)