2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K20553
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木内 久雄 東京大学, 物性研究所, 助教 (50818557)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 水素結合 / 軟X線発光分光 / 分子動力学計算 / 疎水性水和 / イオン性水和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、系統的な水和構造変化を与える4級アルキルアンモニウムイオン水溶液に対して、水素結合変化を敏感に捉えられる軟X線分光法と分子動力学計算を組み合わせた解析を行い、イオン周りの水和による水素結合ネットワークの変調を可視化することを目的とする。4級アルキルアンモニウムイオンは、中央に位置するN+イオンによる水溶性と長い疎水(アルキル)基による脂溶性を併せ持ち、疎水基の長さを変えることにより、イオン性水和と疎水性水和の影響を系統的に変えつつ、水素結合ネットワークを大幅に変えることができる系である。本年度は、4級アルキルアンモニウムカチオンとBrアニオンの1M水溶液(TAABr)に対して、アルキル鎖長を変えた軟X線発光分光測定を行った。TAABrは、NH4Br(ph: 4.5)を除いて、アルキル鎖長さを変えた場合でもph:5.8~6.5以内の弱酸であり、ph:7に近く、大量のH+やOH-がスペクトル変化に影響を及ぼさないため、測定対象として今回選定した。NH4Brとの差分スペクトルからアルキル鎖長さのみの影響を調べると、メチル基、エチル基では水の水素結合状態をほとんど変えずに、ペンチル基、ブチル基では乱れた水素結合の割合が大きくなり、水の水素結合状態が大きく変えていることがわかった。更に、アルキル鎖長が1つ異なる前後の差分スペクトルからアルキル鎖長が1つ伸びた際に水の水素結合状態に与える影響を調べると、特に、ブチル基でその影響が顕著となっており、疎水性水和が水の状態を大きく変えることが軟X線発光分光で明確に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4級アルキルアンモニウムイオンのイオン性水和と疎水性水和のみにフォーカスできるような系を探索し、pHの影響を受けづらいTAABrに対して、軟X線発光分光を測定を行った。また、分子動力学計算においても基盤情報の取得を行っており、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
TAABrの発光分光測定の結果から、アルキル鎖がエチル基からプロピル基になった際に疎水性水和の影響が顕著に発現し、さらにブチル基になった場合さらに大きな影響が現れていることが実験的にわかってきたため、分子動力学計算ではその点を明らかにできるようにフォーカスして研究推進する。また、異なるカチオン-アニオンの組み合わせについても検討する。
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Causes of Carryover |
研究課題採択直後に行われた放射光実験用の真空隔離窓の最適化が滞ったため、計画書と僅かな差が生じたものと思われる。翌年度分として請求した助成金では、最適化した真空隔離窓を購入予定である。
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