2021 Fiscal Year Research-status Report
深海性生物混合物を探索源とした新規海洋天然化合物の探索と化合物ライブラリー化
Project/Area Number |
21K20577
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中村 文彬 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (10907083)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 海洋天然化合物 / 深海生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋生物は医薬品の探索源として注目されており、地上とは異なる環境に適応した深海生物にはユニークな構造や生物活性を有する二次代謝産物が含まれていることが期待される。しかしながら、深海性生物の多くはその採集過程においては破砕されるため、サンプルの確保が難しいこともあり、深海性生物由来の天然化合物の報告例は少ない。そこで本研究では、これまで未利用資源とされてきた深海生物の分類不能な断片混合物を天然化合物の新たな探索源として有効利用することで新たな深海性の海洋天然化合物の同定を目指している。 本年度は、鹿児島県屋久新曽根(水深166~167 m)でドレッジ採集した深海生物の分類不能サンプル抽出物について、極性の違いによる分画を進め、粗精製画分として23画分のスクリーニングサンプルを調製した。そのスクリーニングサンプルについて、細胞毒性活性や抗原虫活性などの生物活性を調べた結果、複数の生物活性ヒット画分を得た。一方で、同じドレッジ採集で得られた分類可能な深海の無脊椎動物サンプル99種それぞれをメタノールで抽出後、2ステップの前処理によって調製したサンプルについて、LC/MS分析を用いた網羅的なメタボローム解析を行うことで、天然化合物を含む生物種の同定のための二次代謝産物データベースを構築した。これら成果により深海生物の分類不能サンプルから同定した天然化合物の起源生物を迅速に、かつ、効率的に同定することが可能となったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に従い、深海性生物混合物を探索源とした新規海洋天然化合物の探索研究のための基盤を整えることができ、順調に研究を進められた。当初期待していた通り、深海生物の分類不能サンプル抽出物から粗精製したサンプルについて、生物活性を有する成分が含まれていることを明らかにした。それとともに、分類可能だった深海の無脊椎動物サンプルの二次代謝産物データベースを構築したことで、深海生物の分類不能サンプルから同定した天然化合物の起源生物を迅速に、かつ、効率的に同定することが可能となったと考えている。 また、令和4年度から実施予定であった深海性の海洋天然化合物の探索研究に着手できている。スクリーニングでヒットした画分から生物活性を指標に天然化合物の精製を行うことで、すでに複数の生物活性化合物が得られており、深海性の海洋天然化合物をライブラリー化できつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は昨年度の研究を継続して進める。引き続き、スクリーニングでヒットした画分から生物活性を指標に天然化合物の単離・精製を行い、得られた化合物についてはMSおよびNMRスペクトルを測定して、それらスペクトルを解析することで化学構造を明らかにする。構造決定した天然化合物は二次代謝産物データベースを用いて起源生物を明らかにする。新規化合物については随時、投稿論文として報告するとともに、本研究で同定する天然化合物を用いた共同研究へと展開させるべく、天然化合物の同定を積み重ね、深海性の海洋天然化合物ライブラリーを作成する。
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Causes of Carryover |
令和3年度は所属研究室の火災が発生したことにより計画時に使用予定であった実験機器が揃っていない仮の実験室で研究を進めてきた。計画時は令和3年度中に実験室が復旧予定であったが、火災現場の検証やその後の手続き、また、物流の停滞等により、令和4年度6月の復旧予定と当初想定していたよりも時間がかかっている状況にある。そのような状況下で工夫して研究を進めることで、年次計画通りに研究を進展することができているが、当初の研究計画のいくつかについて変更することで、研究を効率的に遂行でき、研究費をより効率的に使用できると考えたため、研究費の繰越を申請した。具体的には生物活性スクリーニング細胞毒性活性、酵素阻害活性、およびエピゲノム調節活性などのうち、酵素阻害活性およびエピゲノム調節活性などについては実験環境が整う翌年度に実施予定に変更した。それに伴う生化学試薬や細胞維持費などの経費について翌年度に使用する予定である。一方で、補助事業期間中の研究実施計画について変更はない。
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