2021 Fiscal Year Research-status Report
トラザメの胚期に特有の塩類細胞から謎多き軟骨魚の環境適応機構を解明する
Project/Area Number |
21K20590
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井ノ口 繭 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (90778549)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 塩類細胞 / 軟骨魚 / トラザメ / 環境適応 / 胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
現生魚類の大部分を占める硬骨魚では鰓の塩類細胞が体液のイオンを調節しており、そのメカニズムについては解明されつつある。一方、軟骨魚類の鰓にも真骨魚と同様に塩類細胞が多数存在することが確認されているが、その役割は明らかになっていない。そこで本研究では、申請者が発見したトラザメ胚期に発達する鰓の塩類細胞集団に着目し、これまで成魚を用いた塩類細胞研究では明らかにできなかった軟骨魚類の環境適応機構の解明を目指すこととした。本年度は、トラザメ胚の鰓に存在する塩類細胞の機能を明らかにするため、イオン輸送体の抗体を作成し、免疫組織化学染色を行った。その結果、成魚で提唱されているモデルと同様に、Na+/K+-ATPaseとV-ATPaseが発現する二種類の塩類細胞がトラザメ胚の鰓でも存在することが明らかになった。また、胚期に特異的に発達した塩類細胞集団については、側底膜にNa+/K+-ATPaseが頂端膜にはNa+/H+ exchangerが局在し、海水中ではH+排出すなわち酸塩基調節に関与することが示唆された。次に、塩類細胞集団が最も発達するステージ33の胚の鰓を透過型電子顕微鏡で観察したところ、頂端膜に微絨毛を持つ細胞が開口部を共有している様子が観察された。真骨魚では、鰓が未発達な胚では塩類細胞は卵黄嚢上皮および体表に存在することが知られている。そこで、トラザメにおいても体表を観察したところ、鰓の二次鰓弁が発達する前のステージ31の胚で体表に塩類細胞が多く存在する様子が観察された。また走査型電子顕微鏡でトラザメ胚の体表を観察したところ、成魚の鰓と同様に塩類細胞の開口部が観察された。以上から、トラザメ胚の鰓にも成魚と同様に二種類の塩類細胞が存在し、鰓隔膜に存在する塩類細胞集団がH+の排出を行っていることが示唆されるとともに、軟骨魚胚の体表にも塩類細胞が分布することが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究実施計画に記載したように、トラザメ胚の塩類細胞におけるイオン輸送体の局在について検証を行った。その結果、トラザメ胚の鰓にも成魚と同じイオン輸送体の局在パターンを示す二種類の塩類細胞が存在し、胚期に顕著に発達する塩類細胞集団はH+排出を担っていることが示唆された。また、鰓隔膜に存在する塩類細胞集団の微細構造の観察を行った。さらに、本年度の計画には入っていなかったが、鰓が未発達な発生段階でどのように体液調節を行っているのか調べるため、卵黄嚢上皮及び体表の観察を行った。その結果、二次鰓弁が発達していないステージ31の胚では、体表に塩類細胞が存在することを明らかにした。これは、軟骨魚ではまだ報告されていないものである。一方、本年度の計画にある塩類細胞集団の切り出しは行ったものの、抽出したRNAの質および量は十分ではなく、今後さらなる検討が必要となる。また、本年度の計画にあった、塩類細胞集団の立体構造解析についても、現在実験を進めている。以上から、申請者は自己評に②を選択した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、軟骨魚胚の塩類細胞集団に発現する遺伝子の解析および塩類細胞集団の立体構造解析を行う。本年度はトラザメ胚の鰓で発達する塩類細胞集団が酸塩基調節に関与することが示された。今後は、pHを変化させた海水環境でトラザメを飼育し、鰓を組織観察することで、トラザメの胚期における塩類細胞の機能を明らかにする。これにより、これまでの成魚を用いた研究では解明されなかった軟骨魚類の塩類細胞の機能について明らかにすることを目指す。本研究で得られた結果は、令和4年度日本水産学会秋季大会で発表するとともに、論文にまとめて国際学術誌に提出する。
|