2021 Fiscal Year Research-status Report
野外観察と栽培実験を通じた樹木の難溶性リン獲得様式の解明
Project/Area Number |
21K20594
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
向井 真那 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (60909159)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | リン / 根圏 / 土壌 / 難溶性リン / 森林 / 細根 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は非火山灰土壌および火山灰土壌に成立するコナラ林を4調査地ずつ、合計8調査地選んだ。また2021年7-9月にコナラの三次根までの細根滲出物を野外で獲得し、有機酸の分泌速度を求めた。これまでに取得していたデータ(表層の非根圏土壌と根圏土壌のリン画分、微生物バイオマスC,N,P濃度、ホスファターゼ活性)とのデータをまとめた。非火山灰土壌では有機態リンが根圏で増加している一方で、非晶質鉱物に吸着しているリンは根圏で減少していた。一方、火山灰土壌では植物が利用可能な無機態リンが根圏で減少していた。ホスファターゼ活性や微生物バイオマスC,N,P濃度は、どちらの土壌でも根圏で高かった。細根有機酸分泌速度は非火山灰土壌で大きかった。 以上の結果から、同じ樹種(コナラ)で比較した際、火山灰土壌と非火山灰土壌でリン獲得様式は異なることが示唆された。全リン濃度の低い非火山灰土壌では樹木は有機酸分泌を積極的に行い、根圏の微生物活性やリン酸分解酵素の活性を高めて無機化されたリンを獲得し、さらにわずかに含まれる非晶質鉱物に吸着したリンも有機酸により直接獲得している可能性が示された。一方、全リン濃度の高い火山灰土壌では、非晶質鉱物に吸着したリンを積極的に利用しているわけではなく、利用しやすい形態のリンから優先的に利用している可能性が示された。 上記の野外調査と同時並行で、所属する山梨大学近隣の森林から昨秋にコナラ果実をシードトラップを用いて獲得し、栽培実験を開始した。有機態リンの多い土として森林表層土壌、無機態リンの多い土壌として園芸用鹿沼土を用いて栽培を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査はコロナウイルス感染拡大に伴い調査の遂行が危ぶまれたが、おおむね計画通りに行えた。土壌リン濃度の異なる8つの森林を大学の演習林などを中心に選定し、調査を行った。土壌リン濃度の違いによりコナラのリン獲得戦略が異なっているという興味深い結果を得ることができた。土壌リン濃度が低いところでは有機酸などを根から分泌し、難溶性の非晶質鉱物に吸着したリンを獲得している一方で、土壌リン濃度が高いところでは根滲出物中の有機酸に投資するわけではなく、利用しやすい形態のリンから獲得している可能性が示唆された。これらは当初立てていた仮説とは異なる結果ではあるが、森林のリン循環を考えるうえで学術的にも非常に重要な結果を示せたと考えている。今後は得られた結果が樹種や菌根菌タイプが異なっていても同様の結果が得られるのかなどについて検証していく必要がある。 栽培実験に関しては、コナラの種子を確実に採取することができ、栽培実験を開始することができた。今後成長の様子を見ながら根から分泌される滲出物やそれがもたらす根圏土壌の理化学性の変化が土壌タイプでどのように異なるのかを明らかにし、野外実験と比べることで、樹木のリン獲得戦略の総合的な理解につながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は外生菌根菌タイプのコナラを対象に行ったが、今後は異なる菌根菌タイプの樹種も扱い、理解を深める必要がある。そのため、来年度は内生菌根菌タイプの樹種を対象に行う予定である。土壌のリン濃度の違いでも、菌根菌タイプにより樹木の獲得戦略が異なれば、森林でのリン循環を樹木種多様性という新たな観点から考えられるという点で非常に面白いと考えている。また、同じ菌根菌タイプでも複数樹種で調査を行い、樹種特異的なリン獲得戦略を明らかにしていきたい。樹種の生活史などの関連も調べる必要がある。 栽培実験に関しては、今年度行う実験の結果により、野外観察と同様、菌根菌タイプの異なる樹種を植えて、違いを明らかにしていきたい。
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