2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋性ケイ藻の環境変化に適応したCO2輸送メカニズムの解明
Project/Area Number |
21K20595
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
松井 啓晃 関西学院大学, 理工学研究科, 博士研究員 (60904109)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 海洋性ケイ藻 / 二酸化炭素 / 無機炭素輸送体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究目的である海洋性ケイ藻における無機炭素流路の制御機構を解明するため、新奇CO2輸送体候補を珪藻ゲノムデータベースより探索した。その結果、哺乳類が有するRhesus factor様遺伝子と相同性を有する6遺伝子の配列を取得した。そこで、実際のケイ藻細胞における候補遺伝子の転写発現量をリアルタイムPCRにより調べた結果、6つの候補遺伝子Rh1, Rh2, Rh3, Rh4, Rh5, およびRh6 全てが高濃度CO2および低濃度CO2条件時に発現していた。この結果は、候補遺伝子がケイ藻細胞内で機能している可能性を示唆している。加えて、特にRh5が低CO2環境において発現誘導したことから、環境CO2の輸送に関与している可能性が高いと考えられた。続いて、標的とした遺伝子の機能解析を行うため、過剰発現株の作製を試みた。蛍光タンパク質であるGFPを標識として用い、標的タンパク質と融合してケイ藻細胞に発現するコンストラクトを作製、野生型ケイ藻細胞に導入した。抗生物質を用いた一次選抜により抗生物質耐性株を取得したが、現在のところGFP発現株は得られていない。また、ゲノムデータベースにおいて翻訳領域が不明とされていた候補遺伝子に対し、RACE法によるクローニングを行ったところ、新たな全長配列を取得することに成功した。さらに、本研究で全長配列を取得した候補遺伝子と既存のデータベースから予測された候補遺伝子を比較したところ、既知の遺伝子配列は明らかに短かいことが判明した。そこで、改めて候補遺伝子の配列をクローニングし直した結果、これまでとは異なる翻訳領域が上流に存在することが明らかとなった。この遺伝子領域にはタンパク質のN末端領域がコードされ、タンパク質の細胞内局在および機能活性に影響する。したがって、本成果は海洋性ケイ藻の新奇輸送体を解析する上で重要な知見になると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
候補遺伝子の探索については、先行研究のデータを利用することで比較的スムーズに候補遺伝子を得ることができた。しかしながら、複数の候補遺伝子においてゲノムデータベース上で全長配列が不明であったため、RACE法によるクローニングを行ったことで進行が遅れてしまった。さらに、当初ゲノムデータベース上で判明していた配列が、後になって実際には不足していることが判明したため、クローニングのやり直しに手間取ってしまった。環境変化に応じた輸送体候補遺伝子の発現応答については、候補の1つであるRh5遺伝子が他の候補遺伝子より特に多く発現したこと、かつ環境CO2濃度に応答したことから無機炭素の輸送に関与している可能性が示された。したがって、Rh5を優先して機能解析することで新奇輸送体の機能同定を行うことができると予想している。局在解析および機能解析用のGFP標識タンパク質発現コンストラクトについては、既に半分が完成済であり、順次分子銃を用いて野生型ケイ藻細胞に導入している。現在、1次選抜によって抗生物質耐性コロニーを多数取得したが、2次選抜においてGFP蛍光の観察には至っていない。引き続き選抜を行い、蛍光を確認することができれば即座に顕微鏡解析は可能である。以上から、本研究の進捗状況は計画よりやや遅れているものの、候補遺伝子を絞ることで予定期間に成果を出すことが可能と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
既にクローニングによる全候補遺伝子の配列決定が完了しているため、それらのタンパク質コード領域と緑色蛍光タンパク質GFP遺伝子を連結して、GFP標識した標的タンパク質をケイ藻細胞に発現する形質転換体を作製する。現在6つの候補遺伝子の内、半分の3遺伝子については導入用コンストラクトが完成し、それぞれ野生型ケイ藻細胞への導入が完了している。引き続き、抗生物質耐性コロニーを選抜し、候補株を単離する予定である。残る3遺伝子についても導入用コンストラクトを作製し、ケイ藻細胞内へ導入する。それぞれGFP発現株が単離でき次第、共焦点レーザー顕微鏡により標的タンパク質の細胞内局在を観察する。また、GFP発現株を候補遺伝子の高発現体として機能解析を行う。無機炭素取り込み測定、光合成活性測定、およびクロロフィル蛍光測定を行うことで新奇輸送体の光合成への関与を調べる。同時に、ゲノム編集による標的遺伝子の欠損体を作製し、表現型解析を行う。
|
Causes of Carryover |
当初、必要機器を初年度に購入予定としていたが、感染症の影響により半導体供給が間に合わず納品が著しく遅れてしまった。翌年度には納品が可能ということから、次年度使用額を機器購入に利用する予定である。
|