2021 Fiscal Year Research-status Report
雄性生殖細胞におけるR-loopの解消機構と精子形成及び次世代への影響
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21K20655
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
城本 悠助 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (40912259)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | R-loop / 精子幹細胞 / DNA損傷 / 精子形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
生殖細胞は次世代に遺伝情報を伝達する唯一の細胞であり、その分化過程において劇的な遺伝子発現の変化を伴い、雄では幹細胞である精原細胞から減数分裂を経て精子が産生される。また、DNA変異が生じると次世代に受け継がれてしまうため、DNA損傷や変異に対する制御が非常に重要となる。近年、R-loopが遺伝子発現を制御するDNAのメチル化やヒストン修飾に影響すること、また蓄積するとDNA損傷を引き起こすことが報告されてきた。R-loopは転写されたRNA鎖が鋳型であるDNA鎖と対合した安定なRNA:DNAハイブリッド鎖及び対合していない一本鎖DNAからなる構造である。しかし、生殖細胞におけるR-loop の制御機構及び形成意義については未だ不明な点が多い。そこで、本申請研究では生殖細胞におけるR-loopの解消機構、R-loopが引き起こすDNA損傷やエピジェネティックな変化による精子分化に対する影響、加えて次世代への影響についての研究を展開する。 これまでに、精原細胞の性質を有する培養細胞株であるGerm line stem (GS)細胞を用いてR-loop制御遺伝子をノックダウンしたところ、分裂数の少ない細胞において顕著に細胞死が認められたことから、GS細胞を活用して培養細胞レベルでのR-loop形成とエピジェネティック変化の解析を進行している。また、がん細胞においてR-loopを制御するAdar1のfloxマウスを用いて、生殖細胞特異的Adar1欠損マウスを作成し、生体での解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにがん細胞におけるR-loop制御機構として、RNA編集酵素であるADAR1がRNA:DNAハイブリッドのヌクレアーゼであるRNaseH2複合体と協調してR-loopを解消することを明らかにしてきた。精子形成は幹細胞である精原細胞から減数分裂を経て精子が産生される。RNaseH2AはRNaseH2複合体の酵素活性部位であり、特に精巣での発現が高い。一方、ADAR1についても免疫染色法による解析から減数分裂期以前の細胞において核内で高発現していた。そこで、精原細胞の性質を有する培養細胞株であるGerm line stem (GS)細胞を用いて、R-loop制御に寄与する遺伝子のノックダウンを行った。RNaseH2A、Adar1に加えてRNaseH1に対するshRNAを発現するレンチウイルスを作製し、5ヶ月以内の培養期間のGS細胞に感染させたところ、GS細胞の細胞死が観察された。一方、60ヶ月以上培養した精子幹細胞では細胞死の頻度が低いことから、加齢や細胞老化との関係が示唆された。 生体精巣でのR-loop制御の意義を明らかにするため、Adar1-floxマウスをSPF化し、Stra8-Creマウスと交配して産仔を得ている。今後交配を重ね精原細胞以降でのAdar1 conditional knockoutマウスを用いて精子形成過程への影響とR-loop形成について解析を進める。また、Adar1-flox GS細胞の樹立に成功しており、Cre-リコンビナーゼ発現アデノウイルスを用いてGS細胞でのAdar1欠損の解析を展開する。
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Strategy for Future Research Activity |
R-loop制御因子の遺伝子ノックダウン及びAdar1 flox GS細胞を用いてR-loop量や形成領域、エピジェネティック制御への影響、細胞死の原因についての解析を進める予定である。特に加齢GS細胞においてはATMの活性化が生じていることから、これらの因子とGS細胞におけるR-loopの解消について明らかにしていく。さらに、加齢組織ではADAR1の発現が低下することから(公表予定)、加齢精巣においてもAdar1の発現低下が生じており、R-loopの蓄積を引き起こすのではないかと仮説を立てている。 Adar1 conditional knockoutマウスに加えてウイルスを用いた遺伝子欠損を行う予定である。Stra8は減数分裂期以前の未分化な精原細胞から発現するが、幹細胞として自己複製を行うA single spermatogoniaにおいては発現していない。アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてより未分化な細胞での解析も予定している。Adar1欠損マウスは胎生致死であり、また脳において機能することから、Vasa-Creなどの他のCreリコンビナーゼ発現マウスを使用することは困難ではないかと予想している。すでにAAV-CMV-Creリコンビナーゼウイルスの作製は完了しており、Adar1-floxマウスの精巣に感染させ、精子形成の進行及びR-loopの形成について免疫染色法を活用し、解析する予定である。
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Causes of Carryover |
Adar1 floxマウスの輸送許可、SPF化が遅れたため、マウスの飼育費用及び、解析に使用する試薬の購入に変更か生じた。次年度に予定していた解析を組み込み、全ての計画実験を行う予定である。
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