2022 Fiscal Year Research-status Report
花の病気の理論モデル:送粉者が広げる植物感染症が花形質の進化に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
21K20675
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 公一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特任助教 (80768721)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 送粉者 / 性表現 / 感染症 / 繁殖生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、送粉者は花粉だけでなく、植物個体の適応度に悪影響を与えるような微生物をも同時に運んでいることが報告されている。しかし、このような送粉者を介して花から花へと広がる広い意味での「感染症」の存在が、植物の繁殖成功や花形質の進化に与える影響については、これまで十分明らかにされてこなかった。 そこで、本研究プロジェクトではまず一般的な疫学理論モデルを発展させ、送粉者を介した花の感染症固有の要素を取り入れた理論的枠組み作りに取り組んだ。未感染、感染の状態に加えて、送粉者の花粉の有無、花の受粉の有無の、二つの状態を新たに加えることで、感染症と植物の繁殖成功を同時に推定可能な理論モデルの構築を行なった。 構築した理論モデルを用いて、感染症の広がり方に影響する要素について解析をおこなったところ、花の感染症は送粉者の感染比率が低くても容易に蔓延しうること、植物の繁殖成功は訪花頻度が低すぎても高すぎても低下しうること、花が感染症への耐性(耐病性)を進化させた場合、その結果は花の性表現によって大きく異なることを明らかにした。また、両性花の場合、感染症のタイプに関わらず感染力に応じて中程度の耐病性を進化させたのに対して、雌雄異花の場合、感染症の持つ病徴の性質によって耐病性に対する投資量に雌雄の間で差が発生し、結果として感染症の広がり方にも雌雄差が生じうることが分かった。 さらに、本結果には隣接個体間の血縁度が大きく影響することが明らかとなった。隣接個体間の血縁度が高い場合には、両性花、雌雄異花ともに種子を損なう病徴を持つ感染症に対してオス機能を犠牲にして耐病性を高める投資が卓越するのに対して、訪花速度に影響する病徴では血縁度の影響はほとんど見られなかった。 これらの結果は、花において感染症をめぐる植物側の耐病性の進化は、多様な植物の形質と関連に応じて大きく変わりうることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、昨年度指摘された血縁度の影響について重点的に解析を進めるとともに、花の感染症が性表現の進化に及ぼす影響について、予備的なモデル構築を検討した。しかし、後者については、性への投資割合の進化も関連してくるなど想定以上に複雑な理論モデルを必要とすることが判明するとともに、研究代表者、研究協力者の異動により一時的に研究が滞ったこともあり、期待された進捗を得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度新たに得られた結果を加えて論文として成果をまとめるとともに、季節動態を考慮したより複雑なシミュレーションモデルの解析を予定している。本研究では感染動態について定常状態を仮定しているが、多くの感染症同様花の感染症においても感染自体は時空間的によりダイナミックな動きを見せる可能性が高い。特に、開花期が限られているような植物では、開花初期と後期で大きく感染確率が異なる可能性がある。また、複数種の花や送粉者が混在している場合にも、感染の広がりは大きく異なるものとなる可能性が高い。これらの要素の影響について、理論モデルを用いた解析可能性について検証する予定である。
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Causes of Carryover |
論文投稿が予定通り進まなかったことにより、英文校閲に予定していた謝金等の支出がなかったため。
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Research Products
(1 results)