2021 Fiscal Year Research-status Report
ミクログリアを介した活動依存的な前頭葉スパイン形態可塑性の制御
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21K20680
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田尻 美緒 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (80908575)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | スパイン形態可塑性 / 前頭葉 / ミクログリア / ノルアドレナリン |
Outline of Annual Research Achievements |
前頭葉は脳高次機能に重要とされ、興奮性シナプスを作る樹状突起スパインの形態が学習に伴い変化することがin vivo観察などで示されてきた。しかし、具体的にどのようなシグナルによりスパイン形態可塑性が起きるかは不明のままである。これまでに申請者は成獣期での前頭葉脳スライスにおいて形態可塑性誘発条件を明らかにすることに成功し、ミクログリアが活動依存的な可塑性誘発を抑制していること、この機序はノルアドレナリンにより脱抑制されることを見出してきた。本研究ではミクログリアの下流で神経細胞のスパイン可塑性を抑制するシグナル路を明らかにすることを目的とした。 ノルアドレナリンがミクログリアを介した細胞間伝達により可塑性を制御しているという仮説を強固にするために、ミクログリアのcAMPシグナル伝達を化学遺伝学的に阻害した。結果、ノルアドレナリン依存的なスパイン形態可塑性は抑制され、ノルアドレナリンはミクログリアの細胞内cAMPシグナルを介してスパイン増大を脱抑制していることが示された。 ミクログリアによる可塑性の制御は液性因子、または物理的な相互作用を介している可能性が考えられる。まず液性因子の探索により候補シグナルとしてTNFαが挙げられた。ミクログリアを除去した成獣期マウスではスパイク・タイミング依存的可塑性刺激によりスパイン増大が誘発されるが、TNFαをパフ投与した状態ではこのスパイン増大は抑制された。TNFαの薬理的に阻害するとスパイン増大が誘発された。この結果からミクログリアはTNFαシグナルを介してスパイン増大を抑制している可能性が示された。 前頭葉においてノルアドレナリンがミクログリアを介した細胞間伝達により可塑性を制御しているというのは意外であり、その機序についての知見は脳の学習モデルの理解に影響を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画の1.ミクログリアによる可塑性抑制因子の探索と2.社会的敗北ストレスによる可塑性抑制の機序の検証のうち、1.についてミクログリア細胞内シグナル操作の標的分子に変更はあったが下記のように順当に進展し、2.についてもストレスモデルマウス行動実験系作成を開始している。 ミクログリアによる可塑性抑制因子の探索にノルアドレナリンがミクログリアを介した細胞間伝達により可塑性を制御しているという仮説は薬理的手法に依存していたため、この仮説を確実にするために、ミクログリア特異的にCreを発現するTmem119-CreマウスとCre依存的に抑制性Gi-DREADDを発現するR26-LSL-hM4Diマウスを掛け合わせ、ミクログリアのcAMPシグナル伝達を化学遺伝学的に阻害した。結果、ノルアドレナリン依存的なスパイン形態可塑性は抑制され、ノルアドレナリンはミクログリアの細胞内cAMPシグナルを介してスパイン増大を脱抑制していることを示した。 また、ミクログリアは液性因子TNFαにより可塑性を抑制するという可能性を薬理学的手法により見出した。ミクログリア特異的にCreを発現するTmem119-Creマウスを導入し、ミクログリアに遺伝子発現するためにレンチウイルス・ベクターを用い、TNFαをノックダウンする実験系を構築している。さらに可塑性誘発時のミクログリア形態の変化、物理的接触の可能性も検証するため、ミクログリアに蛍光遺伝子をTmem119-Creマウスにウィルス・ベクターにより導入し、イメージング系の確立を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
液性因子TNFαのミクログリアからのノックダウンにより、成獣期マウスにおいてミクログリア除去効果を再現するのかを確認する。また幼若期マウスにも投与し、この因子の発達期における役割も明らかにする。また可塑性誘発時のミクログリア形態の変化についても確認する。もし刺激したスパイン毎に高率で物理的な接触があればこの経路の関与についても検討する。 社会的敗北ストレスをマウスに与え、感受性群と抵抗群に行動実験により分離する。これら群を比較し、同定したシグナル路に変化があるかを調べる。また社会敗北ストレス感受性群ではノルアドレナリンを投与しても可塑性が出現しないが、シグナルを薬理的に阻害またはTNFαノックダウンすれば可塑性が回復するのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
初年度のミクログリア特異的遺伝子操作のための遺伝子改変動物の導入、サイトカインアッセイのためのキットが必要量に変更があり次年度使用額が生じた。 次年度、スライスでの2光子励起可塑性実験のためにスライス実験用試薬、ケイジド試薬が必要である。ウイルスによる遺伝子操作実験のためAAVベクターの組み換え・作成試薬が必要である。スライス実験、行動実験で用いるマウス購入、維持費および手術に必要な消耗品、ウィルスインジェクション後に飼育するためマウスの飼育費が必要である。
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