2021 Fiscal Year Research-status Report
ALDH1A3陽性乳癌幹細胞の非対称分裂能依存的な癌代謝不均一性獲得機構の解明
Project/Area Number |
21K20732
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
多森 翔馬 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 助教 (90909483)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 癌幹細胞 / 癌の不均一性 / 非対称分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、乳癌を対象としてALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂を切り口に癌細胞の代謝不均一性が獲得される仕組みを明らかにすることを目的としている。 2021年度は、癌幹細胞マーカーALDH1A3の発現を追跡するためのレポーター細胞を複数種類樹立することを目的に乳癌細胞株のALDH1A3遺伝子の改変を試みた。その結果、2種類の乳癌細胞株でALDH1A3発現を蛍光タンパク発現によって追跡することが可能なクローンを樹立した。さらに、この細胞を用いることで、癌細胞の中でも特に癌幹細胞で亢進している解糖系能がALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂依存的に分配されることを示唆する結果を得た。加えて、この非対称分裂による解糖系能分配とその後の分裂により獲得される解糖系能の不均一化との相関関係を示す結果を得た。従って、乳癌におけるALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂は解糖系能の高い癌幹細胞を維持しつつ、解糖系能の低い非がん幹細胞を新たに生み出すことで解糖系能の不均一性獲得の一因となっていると推測している。今後はこのALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂依存的な解糖系能の分配と解糖系能の不均一化の因果関係とその制御メカニズムの詳細について調べていく予定である。ALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂制御への細胞極性分子PKCλの関わりを示した研究成果は複数の学会において発表した。また、この非対称分裂を司る細胞極性分子PKCλと癌で高発現する解糖系代謝酵素GLO1のALDH1陽性癌幹細胞における関係の一端を明らかにした研究成果はAnticancer Research誌に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、本研究の主目的である癌幹細胞の非対称分裂を介した癌細胞の代謝不均一性獲得過程を明らかにするために必要な癌幹細胞マーカーALDH1A3発現細胞を蛍光タンパクによって追跡する複数のレポーター細胞の樹立に成功した。また、代謝不均一性については、癌幹細胞で亢進がみられる解糖系に着目して研究を進めた結果、癌幹細胞マーカーALDH1A3発現の高い細胞で解糖系能が高く、ALDH1A3発現の低い細胞で解糖系能が低いことを示唆する結果を得た。さらに、この解糖系能の違いがALDH1A3の非対称分裂依存的に生じることを示す結果を得た。代謝不均一性に関してはALDH1A3発現が高い細胞集団で解糖系能が高く、ALDH1A3発現が低い細胞集団で解糖系能が低い結果、つまりALDH1A3発現と解糖系能の相関関係を示す結果を得た。癌幹細胞マーカーALDH1A3発現細胞の追跡方法の検討および定量的に解析できる条件の検討に時間を要したが、今後はこのレポーター細胞を経時的に追跡・解析することにより癌幹細胞の非対称分裂によって獲得される癌の代謝不均一性を明らかにするという目的を達成できると考えられることから、進捗状況はおおむね順調と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、樹立済みALDH1A3レポーター細胞を用いて代謝不均一性獲得過程を経時的に追跡する予定である。特に、解糖系能がALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂とその後に生じる細胞の分裂の繰り返しによってどのように解糖系能の不均一性を獲得していくのかを蛍光顕微鏡観察とフローサイトメトリーにより調べる。これによってALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂を制御することの重要性を明らかにする。 次に、非対称分裂依存的な代謝不均一性獲得機構の解明に向けた研究を進める。これまでの研究により、細胞極性分子PKCλがALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂を制御する知見を得ている。その知見に基づいて、細胞極性分子PKCλを標的としてALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂の変化と代謝能の不均一性獲得への影響を調べる。具体的には、PKCλを直接もしくはその発現を制御する分子機構を阻害した状態で長期的に細胞を培養し、解糖系代謝不均一性に変化がみられるかを蛍光顕微鏡観察とフローサイトメトリーにより調べる。これらを通して、解糖系代謝不均一性獲得にPKCλ依存的な非対称分裂が関わるか否かについて明らかにする。 最後にこれらの結果を踏まえて、ヒト正常様乳腺細胞を用いて正常乳腺幹細胞と乳癌幹細胞を比較する。これにより、乳癌幹細胞の異常性を明らかにするとともに乳癌幹細胞から乳癌が生じる謎に迫る。 以上の研究が達成されることで、癌の不均一性における癌幹細胞の非対称分裂制御の重要性を明らかにし、遺伝子変異の蓄積に差の無い細胞集団からなる癌においても生じる癌細胞の性質の違いがどのようにして獲得されるのかについての新たな知見を提供できる。この知見は、癌の治療抵抗性の克服に向けた新しいアプローチの創出に繋がるものである。
|